シンチレータ

シンチレータとは

シンチレータとは、荷電粒子や放射線が通過すると発光する物質の総称です。

無機シンチレータと有機シンチレータに分類されます。無機シンチレータはγ線やX線の検出に適しています。原子番号が大きい物質の結晶で作られており、発光量が多くてエネルギー分解能が良い反面、応答速度が遅いです。有機シンチレータにはプラスチックシンチレータや液体シンチレータなどがあり、安価で軽く、反応速度が速いため、α線やβ線の検出に適しています。

シンチレータは検出器と組み合わせたシンチレーション検出器として幅広い分野に応用可能です。 

シンチレータの使用用途

シンチレータは放射線を紫外線〜可視光領域の光に変換します。この光を光電子倍増管や光半導体によって電気信号に変換してデータ処理を行い、放射線の情報を画像などの情報として表せます。

この機能はX線コンピュータ断層撮影 (X線CT) 、陽電子断層撮像 (PET) などの核医学分野、空港の手荷物検査、食品検査、電子部品の非破壊検査、石油・鉱物資源の探査、原子炉放射線モニタリング、素粒子・原子核・宇宙物理分野の研究用など、多種多様な分野で利用可能です。

シンチレータの原理

シンチレータの発光原理は無機シンチレータと有機シンチレータで異なります。

1. 無機シンチレータ

無機シンチレータ中を荷電粒子や放射線が通過すると結晶格子の価電子帯の電子がエネルギーを得て伝導帯へ励起し、自由に動き回ります。電子が励起した後の価電子帯には正孔が生じ、伝導帯の電子と価電子帯の正孔が出会うと電子は再び価電子帯に戻り、エネルギーの差分に応じた波長のシンチレーション光が発生します。

結晶格子に不純物が含まれない場合には価電子帯と伝導帯の間 (バンドギャップ) は大きく、発生する光の波長は短いです。その一方で不純物が含まれると一部の結晶構造が変化し、バンドギャップ内に新たなエネルギー準位が生まれます。不純物の励起エネルギーは小さく、発光は可視光になります。

2. 有機シンチレータ

有機シンチレータは結晶格子ではなく単一分子の励起で発光可能です。室温ではほとんどの電子が基底状態にあり、放射線が通過するとそのエネルギーを受けて励起します。大部分の電子は励起状態の中で一番エネルギー準位の低い第一励起状態に上がり、基底状態に遷移する際に発光します。この発光を蛍光といい、有機シンチレータで発生する光は大部分が蛍光です。

中には放射線から大きいエネルギーを得て第二励起状態以上に上がる電子もあり、非常に短時間で内部転換により第一励起状態に戻って基底状態へ遷移します。

第一励起状態に励起した電子の一部はスピン三重項状態に系間遷移し、時間をかけて発光して基底状態に戻り、この発光を燐光といいます。スピン三重項状態は第一励起状態よりもエネルギー準位が低いため、燐光の波長は蛍光よりも長いです。またスピン三重項状態から再び第一励起状態に戻り、蛍光を発して基底状態に戻る電子もあり、これが遅発蛍光です。

シンチレータの構造

シンチレータの構造は無機シンチレータと有機シンチレータで違います。

1. 無機シンチレータ

無機シンチレータには、NaI:Tl、LSO:Ce、タングステン酸鉛、ケイ酸ガドリニウム (GSO) 、ゲルマニウム酸ビスマス (BGO) などがあります。タングステン酸鉛の化学式はPbWO4で、GSOはCeを添加したGd2SiO5のことです。BGOはビスマスジャーマネイトとも呼ばれ、化学式はBi4Ge3O12と表されます。

NaI:TlはアルカリハライドのNaI (ヨウ化ナトリウム) と発光中心のTI (タリウム) による結晶構造を形成しています。Tl+が6spから6s2に遷移した際に発光し、発光量の基準に用いる場合が多いです。潮解性があり、大気中の水分を吸収して劣化するため、密封して使用します。

LSO:Ceは酸化物のLu2SiO5に発光中心のCe3+を加えた無機シンチレータです。Ce3+が5dから4fに遷移した際に発光し、NaI:Tlよりも発光寿命が一桁程小さいです。

2. 有機シンチレータ

有機シンチレータの具体例は、有機結晶シンチレータ、液体シンチレータ、プラスチックシンチレータなどです。液体シンチレータであるナフタレンなどは固体ではないため、強い放射線照射で損傷しにくいです。

有機シンチレータに含まれるアントラセンやスチルベンなどの有機分子はπ電子構造を取っており、複数の励起状態を持ちます。応答が異方的で容易に加工できず、頻繁に使用されていません。アントラセンは発光量が大きく、他のシンチレータの発光量をパーセンテージで表す場合もあります。

プラスチックに有機発光物質を数種類溶解したプラスチックシンチレータは取り扱いやすく加工しやすいです。α線やβ線に適していますが、γ線には向いていません。

参考文献
https://www.lowbg.org/ugnd/workshop/groupC/sn20180108/files/0901_Iida.pdf
http://yoshikawa-lab.imr.tohoku.ac.jp/theme/scintillator.html
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h28kisoshiryo/h28kiso-02-04-02.html
https://www.jemima.or.jp/tech/6-02-02-06.html

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