コモンモードチョークコイルとは
コモンモードチョークコイルとは、コモンモードノイズ (Common Mode Noise) と呼ばれるノイズを抑制するために使用される電子部品の一種です。
コモンモードノイズは、電子機器や回路において複数の信号線や配線に共通して現れるノイズのことを指し、グランドや基準電位に対して同じ極性と大きさで現れます。コモンモードチョークコイルを信号線に直列に挿入すると、コモンモードノイズを抑制しながらも信号そのものには影響せず、そのまま次段の回路に伝送します。
コモンモードチョークコイルの使用用途
コモンモードチョークコイルは、電磁波ノイズの影響を抑えるためさまざまな電子機器で使用されています。以下はその主な用途です。
1. 電源回路
電源回路における使用では、スイッチング電源で発生するコモンモードノイズを抑制します。また電源ラインからのノイズを減少させ、他のデバイスへの悪影響を防ぎます。
2. 通信回路
通信回路では、USB、HDMI、Ethernetなどの高速通信で発生するノイズを除去します。また信号線間でのクロストークを防ぎ、通信品質の劣化を防止します。
3. 家電製品
冷蔵庫や洗濯機などのモーター駆動機器で発生するノイズを抑制するのにも使用されます。家電製品の電磁波規制 (EMC規格) に適合させるために用いられます。
4. 車載機器
車内の電子制御ユニット (ECU) や電動モーターから発生するノイズの低減に使用されます。ノイズを減少し、カーナビや通信モジュールの動作を安定させます。
5. 医療機器
高感度なセンサや信号処理回路を持つ機器において、ノイズの干渉を防止します。
コモンモードチョークコイルの原理
電源線や信号線を伝わるノイズは、ディファレンシャルモードノイズとコモンモードノイズの2つに分類されます。基板上に組み込まれた電気回路では、回路の中のある部分に生じたノイズ電流は負荷を通過した後に別のルートを通って戻ります。これはディファレンシャルモードと呼ばれ、このように流れたノイズ電流はディファレンシャルモードノイズと呼ばれます。
一方、基準大地と基板上の配線間に静電容量が存在するために、この静電容量への充放電電流が流れ、基板側から基準大地へと電流が戻るルートが存在します。これがコモンモードと呼ばれるものです。コモンモードチョークコイル、2つ以上の巻線を持ち、共通のコアに巻かれています。この構造により、コモンモードノイズとディファレンシャルモード信号とでは異なる伝達特性を示します。
1. コモンモードノイズへの影響
コモンモードノイズは、信号線 (2本のケーブル) に同じ方向で流れる電流から発生します。コモンモードチョークコイルでは、共通のコアを利用して、これらの同方向の電流が強く結合し、極めて大きなインダクタンスを示します。この大きなインダクタンスは、コモンモードノイズを効果的に抑制します。
2. ディファレンシャルモード信号への影響
ディファレンシャルモード信号は、例えばデータ信号や電源供給電流など、信号線間で逆方向に流れる電流です。コモンモードチョークでは、この逆方向の電流が互いに打ち消し合うためインダクタンスがほぼゼロになり、その結果信号には影響を与えません。信号と同様にディファレンシャルモードノイズには影響を与えませんので、抑制効果は期待できません。
コモンモードチョークコイルの構造
コモンモードチョークコイルは以下の3つの要素で構成されています。
- 巻線:通常2つ以上の巻線があり、信号線や電源線を通します。
- コア (磁心) :フェライトやパーマロイなどの磁性体で作られ、コイルのインダクタンスを大きくしてノイズ抑制性能を向上させます。
- ケース:部品を保護し、外部干渉を防ぐための外装です。
コモンモードチョークコイルの種類
コモンモードチョークコイルは、使用目的や性能に応じて以下の種類に分けられます。
1. コアの種類による分類
- フェライトコア:高周波ノイズ抑制に適しており、スイッチング電源や通信機器で一般的に使われます。
- パウダーコア:低周波から高周波まで幅広い帯域で使用可能です。
- 空芯コア:高電流用途に適していますが、インダクタンスを大きく出来ないことが欠点です。
2. 構造による分類
- トロイダル型:環状のコアを使用しており、漏れ磁束が少なく効率が高いものです。
- ロッド型:簡単な構造で、安価ですが性能はやや劣ります。
- サーフェスマウント型:小型化されたタイプで、プリント基板上に直接取り付けられるものです。
3. 周波数特性による分類
- 低周波対応タイプ:主に電源ラインのノイズ抑制に使用します。
- 高周波対応タイプ:高速デジタル信号回路のノイズ除去に多く使用されます。
コモンモードチョークコイルのその他情報
1. コモンモードチョークコイルの利点
高いノイズ抑制性能
広帯域でのノイズを効率的に除去できます。
双方向のノイズ対策
入力側と出力側の両方のノイズを低減します。
回路への影響が少ない
信号や電源には影響を与えず、ノイズ低減が可能です。
小型化
SMD型など小型のものがあり、省スペースでの実装が可能です。
2. コモンモードチョークコイルの欠点
飽和による性能低下
高電流が流れると磁芯が飽和し、効果が低下する場合があります。
周波数特性の制限
極めて高い周波数帯域のノイズに対して効果が限定される場合があります。
コスト
高性能なものはそれなりに高価です。
参考文献
https://article.murata.com/ja-jp/article/basics-of-noise-countermeasures-lesson-6
https://www.murata.com/ja-jp/products/emc/emifil/overview/lineup/cmcc