EtherCAT

EtherCATとは

EtherCATとは、Ethernetと互換性のある産業用オープンネットワークです。

EtherCATは「Ethernet for Control Automation Technology」の頭文字から名付けられました。産業用ネットワークにおいては、「稼働状況などのデータを集約する上位のパソコン・サーバ」「装置を制御するコントローラ」「センサ・測定器・モーターなどの駆動機器」を接続しているネットワークをフィールドネットワーク (フィールドバス) と呼びます。

このネットワークは、情報系ネットワークで用いられているLANとは異なります。EtherCATは、このフィールドネットワークの一種で、Ethernetと互換性を持つオープン規格のネットワークです。特徴として効率性の高さや高速通信、高精度の同期が挙げられます。

EtherCATは相互互換性を保つことを目的としており、ETG ( EtherCAT Technology Group) によって機能要件や認証などが規定されています。ETGへの加盟は無料であり、ETGの加盟企業は世界中で約2,400社にものぼります。

EtherCATの使用用途

EtherCATは、多くの分野において産業用オートメーション (FA) や効率的なラインの制御などに利用されています。各種産業の工場の生産ラインにおいて、以下を数珠繫ぎ状に接続することで効率的にラインの自動化が可能です。

  • センサーやカメラ、モーター、入出力 (I/O) 機器などの駆動機器
  • 個々の駆動機器を制御するコントローラー
  • 管理・制御用のコンピュータ

また、機械の内部での制御システムにも用いられます。使用分野の例は、以下の通りです。

  • 産業機器、工作機械、フライス加工機
  • ロボット
  • 溶接機
  • クレーン、リフト
  • 計測装置
  • マテリアル・ハンドリング
  • 製紙機械、包装機、印刷機
  • 農業機械
  • 海上機器
  • 窓枠製造装置、家具製造装置
  • 自動運行装置
  • 医療機器
  • 半導体製造装置

EtherCATの原理

EtherCATでは、ライン型、ツリー型、スター型、ディジーチェーンなど、多くの接続形態に柔軟に対応しています。例えば、ディジーチェーンでは、制御する側の機器であるマスターを起点として制御される側の装置であるスレーブが数珠繋ぎに接続されている形式です。

デイジーチェーン方式の情報伝送の流れは、以下の通りです。

  1. マスターがフレームを発信します。
  2. 各スレーブは、バケツリレー式に隣のスレーブへフレームを転送します。フレームのデータ部には各スレーブ毎に出力/入力データビットが与えられており、送信データを書き込みます。また、送信データの書き込みが終わると、今度は受信データを読み込みます。
  3. フレームが全てのスレーブを通過すると、末端のスレーブはフレームを隣へ送り返します。
  4. 再び全てのスレーブ間でフレームの転送を繰り返してマスターへと戻ります。

EtherCATは、このサイクルを高速に繰り返すことで各装置とリアルタイムに通信することが可能です。各スレーブはフレームの中で自分に関連する指示内容のみを読み取り、処理を行っています。

なお、上記2のステップのように、フレームの受信・内部処理と送信を同時に行う形態のことをOn The Fly方式と呼びます。

EtherCATの構成

EtherCATのネットワークは制御デバイスであるマスターと、従属する入出力機器であるスレーブとで構成されています。これらを接続する形式は、ライン型、ツリー型、スター型、ディジーチェーンなどさまざまです。

物理的な接続仕様は、一般的なEthernetに準じます。RJ45端子のツイストペアケーブルで機器間を接続し、電気信号を流す通信方法です。通常のイーサネットフレーム (IEEE 802.3標準Ethernetフレーム) のペイロード (伝送制御情報を除いた正味の伝送データ) 部分にEtherCAT規格で定められるフレームを入れ、子状に積載して情報を伝送します。

EtherCATの種類

EtherCATには、EtherCATから派生した新規格や追加仕様などがあります。

1. EtherCAT P

EtherCAT Pとは、EtherCAT通信機能に電源供給機能を統合した新規格です。電源供給配線と通信線が1本に集約されているため、接続に必要な部品や工数・コストなどが省かれ、装置の小型化や省スペース化が可能となります。

スレーブ機器は、データ通信線である単一ケーブルで接続します。ただし、各機器を駆動するための電源供給は別途必要です。EtherCAT Pは、FA用途におけるUSBやPower over Ethernetのようなものであると言えます。

2. EtherCAT Automation Protocol (EAP) 

EtherCAT方式の工場制御ネットワークとしては、EtherCAT Automation Protocol (EAP) が挙げられます。EAPは、EtherCAT通信フレームを標準的なTCP・UDP/IPにのせた通信です。EAPにおいては、汎用LANに接続する上位の操作デバイスによって制御コントローラーの下流にあるデバイスの制御や設定を行うことが可能です。

製造工程の管理や工場全体のプロセス制御を行うためには、上位システム (SCADAやMES) 間との接続が必要になります。EAPでは、プロセス制御に必要な制御機器の設定や診断を、LAN通信ネットワークを用いて行うことが可能です。

3. Safety over EtherCAT (FSoE)

その他のEtherCAT通信として、工場制御の安全性確保を行うSafety over EtherCAT (FSoE)が挙げられます。

EtherCATのその他情報

1. Ethernetとの違い

EtherCAT通信におけるソフトウェア処理では、Ethernetフレームを使用しています。ただし、TCP/IPプロトコル処理はせず、独自のIndustrial Ethernetプロトコルによる高速処理を行います。Industrial Ethernetプロトコルはハンドシェイクによる機器間の送受信確認を行いません。これがEtherCATは高速応答性を実現できる理由の1つです。

また、EtherCATの物理層はEthernetのハードウェア構成と同じですが、産業用途であるという理由から、物理層デバイスにおける環境耐性、ESD保護性能、広い動作温度範囲 (−40℃~85℃) が必要です。Ethernetの接続台数には上限がありませんが、EtherCATの接続上限は65,535台です。

2. 性能

EtherCATは、一般的に産業用Ethernet技術の中で最高速であると言われています。1,000点に要するI/O更新時間は、わずか30μ秒です。「EtherCAT」規格は通信速度100Mbpsですが、「EtherCAT G」は1Gbps、10Gbpsであり、更に高速・大容量通信に対応しています。

応答・同期速度が速いため、EtherCATはフィールドバスシステムによる制御や計測において非常に優れた通信方法です。また、処理中の通信待ち時間を削減可能で、アプリケーションの効率が大幅に向上します。

同じサイクルタイムで比較した場合、EtherCATシステムは一般的に他のフィールドバスシステムに対して、CPU負荷が25~30%低くなるとされます。

3. EtherCAT スレーブとマスター

EtherCATスレーブは、ベッコフオートメーションだけでなく、様々な企業から販売されています。また、独自にEtherCATスレーブを開発することも可能です。ASICまたはFPGAを用いた実現方法があります。

EtherCATでは既存のEthernetの形式を転用できるため、RJ45形状のEthernetポートが標準装備されているPCであれば、EtherCATマスターとして利用することが可能です。従来のフィールドネットワークのように、コントローラに専用の通信チップを増設する必要はありません。

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