電着受託加工とは
電着受託加工とは、外部からの委託を受けて、電着塗装を用いて部品や製品などの素材の表面に機能性膜を成膜するサービスです。
電着塗装では水溶性塗料の入った液槽に素材を浸し、素材と電極の間に直流電流を流し、塗料を電気的に吸着させて皮膜を作ります。電着塗装の仕組みは電界めっきと同じですが、電界めっきは形成する膜が金属であるのに対して、電着塗装の場合には樹脂などの非金属膜が形成されます。
素材にマイナス極を繋ぎ、プラスの電荷を帯びた塗料を付着させる方法をカチオン電着塗装と言います。一方、素材にプラスの電極を繋ぎ、マイナスの電荷をもった塗料を付着させる方法をアニオン電着塗装といいます。
電着塗装は複雑な形状をした素材の細部まで均等な皮膜を形成できるなど様々な優れた特性を持つため、塗装の目的に応じたノウハウの蓄積が必要です。塗装前の脱脂、酸洗、界面活性化処理や塗装後の乾燥処理等を加えると、比較的大きな規模の設備が必要になります。電着の工程を外部に委託する場合に、電着受託加工を行っている会社を利用します。
電着受託加工の使用用途
電着塗装を用いると、複雑な形状をした素材の奥深くまで均等に塗装膜を作ることが可能です。この塗装膜は金属ではなく樹脂であり、防錆、耐熱、絶縁等の機能を持たせることができます。電着受託加工では、この特性を利用して様々な機械部品に対して性能を向上させるための加工を行います。
カチオン電着塗装の主な使用目的は素材に防錆処理を施すことです。カチオン電着塗装で付けた皮膜は、ピンホールが無く極めて優れた防錆性能があります。さらに、素地および上塗り塗料との密着性も優れています。最も知られた使用例として、日本で生産される殆どの自動車の下塗り塗装にカチオン電着塗装が使われています。さらに自動車に限らず防錆が必要な様々な機械部品にカチオン電着塗装が行われています。
耐熱架橋イミド系樹脂を使用した電着塗装では、耐熱性と絶縁性を同時に付与することができます。具体例としてはEV用モーターコイルの絶縁皮膜に使われます。また、極細の金属線や微小な電子部品の表面に絶縁性の皮膜を付ける場合にも使用されます。フェライト磁石などの磁性材料に電着による樹脂の皮膜をつけると、磁性を損なわないで絶縁性と防錆性を付与することが可能です。
- カチオン電着塗装
薬液の管理がしやすく、鉄製品の塗装に多く使われています。 - アニオン電着塗装
アルミニウムの塗装に多く使われています。また、アニオン塗装ではカラフルな着色がしやすいのが特徴です。
電着受託加工の原理
ここでは電着加工の原理を、電着塗装の代表例であるカチオン電着塗装を例にとって説明します。
カチオン電着塗装では、皮膜を作るカチオン樹脂がプラスイオンの形で液槽の中の水溶液に溶け込んでいます。皮膜を付ける素材を水溶液に浸し、直流電源のマイナス側につなぎます。一方、液槽の内壁は導電性の金属でできており、これを電源のプラス側につなぎます。
両者の間に電圧を加えるとカチオン樹脂のプラスイオンは電気泳動によって素材の周りに集まって来ます。素材の表面は水中のOHマイナスイオンで取り囲まれているので、カチオン樹脂のイオンは電子を受けとり、電気的に中和されて、素材の周りに析出して皮膜を形成します。
皮膜の厚さは電流密度と電流を流す時間に比例して厚くなります。同時に水の電気分解も進行しているので、マイナス極となっている素材の表面からは水素の気泡が発生し、プラス極となっている液槽の内壁面からは酸素の気泡が発生します。
電着受託加工の選び方
電着塗装の対象は大小様々です。自動車に使うような、大きなパネルや鋼材の全体に皮膜を施す場合もあれば、小さな電子部品の特定の場所だけに皮膜を付ける場合もあります。また、電着塗装によって皮膜に持たせる機能も、防錆、酸化防止、絶縁性、耐熱性、装飾性など様々です。
電着受託加工を選択する際には、素材の大きさと材質、加工の目的を確認した上で、用途に合った設備を保有している会社から選択する必要があります。精密部品への電着塗装にはゴミやホコリが付着しない、クリーンルーム内やクリーンブース内での作業が必要な場合もあります。
さらに、電着塗装の前後の処理はもちろん、下地塗装や上塗り塗装を併せて行ってくれる加工会社もあるので、必要に応じて相談してみることをお薦めします。
電着受託加工のその他情報
電着受託加工の前後の処理
電着塗装を用いて素材に品質の良い皮膜を形成するためには、予め素材の汚れを完全に除去して表面をきれいにする前処理が必ず必要になります。前処理の洗浄には、脱脂、酸洗、超音波洗浄、純粋による洗浄などがあります。
電着が終了した素材は、塗料を落とすために、水洗、エアーブローなどをした後に、乾燥室で乾かします。