電子顕微鏡

電子顕微鏡とは

電子顕微鏡

電子顕微鏡は、電子線を照射することで試料を観察する顕微鏡です。電子線の波長が非常に短いことから、光学顕微鏡では観察できないような超微細構造を可視化することができます。電子線の透過率を画像として出力するものと、電子線と試料との相互作用によって生じるシグナルを画像化するものと、大きく分けて2種類のものがあります。

製品として販売されている電子顕微鏡の多くは、工業材料に最適化されたものと、生物試料の観察に最適化されたものがそれぞれ販売されています。また、電子顕微鏡はしばしば略して電顕(でんけん)または英語の頭文字を撮ってEMなどと呼ばれています。

電子顕微鏡の使用用途

工業分野においては、破損した金属部品の破面解析をすることでその原因を調べたり、加工表面を観察することで品質チェックなどを行うために用いられます。また高分子ポリマーのネットワークを観察することで、器械的特性を調べたり、不純物の混入を評価したりします。生命科学分野では、細胞内小器官の微細構造を可視化したり、複雑に絡み合った神経細胞を観察することで、神経細胞同士のつながりをマッピングしたりします。また、試料に簡単な前処理を行うことで、タンパク質の構造解析に応用可能であることが明らかになったため、2017年のノーベル化学賞を受賞しました。

電子顕微鏡の原理

電子顕微鏡を構成する要素は、線源、レンズ、検出器であり、言葉だけで見ると光学顕微鏡とよく似た構成をしています。しかし、その一つ一つは光学顕微鏡のそれとは大きく原理が異なります。

まず、電子線は空気中の分子などと衝突してすぐに減衰・消滅してしまいます。そのため、電子線の発生と照射は真空中で行わなければなりません。

次に一般的な光学系で使用されるようなガラスレンズは透過してしまうため、電子線を屈折させるには磁場を印加して収束させる磁気レンズを用いる必要があります。

このようなレンズの特性として、光学的な収差が大きく、これを改善するために、開口数が小さく設計されています。これによって、電子顕微鏡は焦点深度が深く、奥行きのある立体的な観察をすることができます。

標準的な電子顕微鏡は、次の2つに分類されます。

1. 透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)

電子線を試料に透過させ、その減衰をもとにコントラストを得る方法です。電子線を透過させるために、試料の厚みは非常に薄く調整されている必要があります。電子を打ち出す強さを加速電圧と呼びますが、300kVの加速電圧での波長は0.00197nmと極めて短く、分解能も0.1nmとなり原資サイズのオーダーであることがわかります。これを最高倍率に換算すると80万倍となり、光学顕微鏡の800倍になり分解能の高さが分かります。透過電子顕微鏡では試料内部を透過してきた電子を観察するため、極小領域の試料内の結晶構造などの内部の構造を見ることに優れています。

2. 走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)

真空中で資料に電子線を照射すると、二次電子、反射電子、特性X線などが放出されます。走査型電子顕微鏡像は空間的に収束させた電子線を走査し、二次電子や反射電子信号から像を形成します。二次電子は試料表面近くから発生する電子であるため、二次電子像は試料の微細な凹凸を見るのに適しています。反射電子は試料を構成する原子に衝突し跳ね返された電子であり、反射電子の数は試料の組成(原子番号、結晶方位等)に依存します。そのため、反射電子像は試料表面の組成分布を評価するのに適しています。

電子線が試料に衝突すると、その表面を構成する原子が励起され、電子を放出します。その他にも反射電子や特性X線などが放出されますが、二次電子とよび、放出される二次電子の強度をポイントスキャンすることで得られます。

電子顕微鏡でしか観察できないもの

電子顕微鏡は一般的な光学顕微鏡と比較して分解能が極めて高いので、例えば細胞などの微細な組織構造や金属の結晶を原子サイズのオーダーで観察することができます。

細胞を例に取ると、光学顕微鏡では核以外の細胞中の微細な構造を詳しく観察することができませんが、電子顕微鏡では観察可能になります。これにより、細胞内での酵素の働きや細胞構造の反応など、様々な機能まで詳細に調査できます。

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