ピアノ線とは
ピアノ線とは、高張力鋼線の一種です。
ピアノ線は自動車やエレクトロニクス分野でのワイヤーや各種ばね材、吊り橋に使用するケーブル、ベッドスプリング、プレストレストコンクリートなど、幅広い用途に使われています。このような様々な用途に対応するため、ピアノ線はJISによって、引張強度によりピアノ線A種(SWP-A)、ピアノ線B種(SWP-B)、ピアノ線V種(SWP-V)の3種類が規定されています。ままた、JISには、製造方法や機械的性質なども規定されています。
ピアノ線の使用用途
1. 自動車やエレクトロニクス分野でのワイヤー
自動車のリヤハッチの開閉用ワイヤーや、スピーカーのボイスコイルなどが挙げられます。
2. 各種ばね材
自動車のサスペンションやシートのばね、工業用機械のばねなどが挙げられます。ピアノ線は、工業用機械のばねとして、以下のような場所で使用されることがあります。
油圧ショベルのアームバネ
油圧ショベルのアームバネは、油圧ショベルのアームを支えるために使用されます。ピアノ線を使用することで、高い強度と耐久性を持ち、長い時間使用しても変形しにくいアームバネが製造できます。
圧延機の緊張調整バネ
圧延機では、金属板を薄く加工する際に、緊張調整バネが必要です。ピアノ線を使用することで、高い強度を持ち、正確な緊張調整が可能なバネが製造できます。
織機のヘドルバネ
織機では、ヘドルバネが織機の動作に欠かせない部品です。ピアノ線を使用することで高い強度と耐久性を持ち、長時間使用しても変形しないバネが製造できます。織機のヘドルバネは、糸の通し目を開閉するための部品です。織機では縦糸と横糸を交差させて織物を作りますが、その際に縦糸を一定の間隔で上下に動かす必要があります。ヘドルバネはその動きを制御するための部品であり、織機の正確な動作に欠かせない部品です。
プリンターのピックアップローラーバネ
プリンターのピックアップローラーバネは、用紙を取り込むための部品です。ピアノ線を使用することで高い強度を持ち、高速で回転するローラーの負荷に耐えられるバネが製造できます。
3. 構造物
吊り橋に使用するケーブル、高速道路の安全フェンス、プレストレストコンクリートなどが挙げられます。プレストレストコンクリートとは鉄筋コンクリートの一種で、構造物に事前に張り付けた高張力鋼線やケーブルに張力をかけ、予め圧縮力を与えておくことで、その後の荷重や応力による変形を最小限に抑えられるコンクリートのことです。予め圧縮力をかけることによって、コンクリートがより高い強度を発揮し、大きなスパンの橋や高層ビルなどの建造物をより安全に軽量化できます。
4. 日用品
ベッドのスプリング、自転車のブレーキワイヤーなどが挙げられます。
5. その他
電力線用ワイヤーの補強材などが挙げられます。
ピアノ線の種類
ピアノ線は、引張強さ (N/mm2) により、ピアノ線A種 (SWP-A) ・ピアノ線B種 (SWP-B) ・ピアノ線V種 (SWP-V) の3種類がJIS (G3522:2014) で規定されています。
ピアノ線A種とピアノ線B 種が「主として動的荷重を受けるばね用」として、ピアノ線V種が「弁ばね又はこれに準じるばね用」と規定されているほか、製造方法や機械的性質などが規定されています。
ピアノ線の引張強さは、機械的性質として各品種ごとに線径で区分けされ、規定されています。機械的性質の項目には「巻付け性」をはじめ「ねじり特性」「曲げ性」「線径及び許容差」「表面状態」といった記載があり、また各規定項目に対しての試験方法なども規定されています。
ピアノ線の性質
1. 引張強度が高い
ピアノ線が高い引張強度と強度を持つ理由は、製造工程にあります。ピアノ線は、高品質な鉄鋼材料から作られ、ドローイングと焼き入れという工程を経て製造されます。
ドローイングとは、金属線を引き延ばし細く均一な線材を作る加工方法のことです。金属線を金型に通して引き延ばすことにより、線材を均一に細くできます。鉄線を金型から引き延ばす工程であり、均一で細い直径の線を作り出せます。ドローイングによって作られた線は、均一な構造を持ち、強度が高くなるのが特徴です。
焼き入れは、高温の環境で鉄線を加熱し、急冷することで、線に弾力性と強度を与えます。鉄線が熱によって拡張し、急冷することで収縮し、より強い線になります。
2. 耐久性が高い
ピアノ線が耐久性が高く、高温で焼き入れることでさらに耐久性が向上する理由は、以下の通りです。
ピアノ線は、高品質の鉄鋼材料を用い、製造過程でドローイングと焼き入れが行われることで、ピアノ線は非常に強い張力に耐えられるようになります。また、耐腐食性にも優れており、錆びにくいため長期間使用しても劣化しにくいです。
焼き入れは、高温の環境でピアノ線を加熱し、急冷することで、線に弾力性と強度を与える工程です。高温で焼き入れることにより、ピアノ線の結晶構造が改善され、より強固な構造が形成されます。そのためピアノ線の耐久性が向上し、より長期間の使用に耐えられます。また、焼き入れによってピアノ線の表面が硬化し磨耗にも強くなるため、使用中に摩耗しても劣化しにくくなります。