ピアノ線

ピアノ線とは

ピアノ線_図0

ピアノ線 (英: Piano wires) とは、高強度で品質精度の高い硬鋼線です。

主に楽器のピアノ弦に使用されることに由来していると言われています。建築材料、自動車部品など、さまざまな用途で使用されています。

ピアノ線は0.60~0.95%の炭素を含有する炭素鋼の線材で、強度と弾性率が高いという特徴があります。硬鋼線は汎用的な用途で使用される比較的安価な鋼線で、ピアノ線は寸法や化学成分の精度が高く、高強度が必要な機械部品で使用される鋼線です。なお硬鋼線は、JIS G3521 硬鋼線として規定されています。

ピアノ線の使用用途

ピアノ線_図1

図1. 使用例

1. ピアノ

名前の由来通り、楽器のピアノ弦 (ストリング) にピアノ線が使用されています。専門家はミュージックワイヤと呼び、スプリングなどに使用するピアノ線と区別しています。

ミュージックワイヤは、一般のピアノ線と機械的性質はほぼ同じです。しかし、一般の工業用ピアノ線とは異なり、平打ち性とペンチ曲げ性という特別な特性が要求されます。平打ち性は巻線加工を行うとき、巻線のゆるみ防止に両端を叩いて扁平にします。その際に、ハンマーで線径の1/2まで叩いてつぶし、割れの出ないことを検査しています。

2. 建築資材

ピアノ線は、プレストレストコンクリート (PC) の緊張材として使用され、PC鋼線と呼ばれています。PC鋼線は、鉄筋コンクリート (RC) の鉄筋と区別するために使われます。鉄筋などの補強用鋼材と比べて引張強度が高く、コンクリートに圧縮力を与えるために使用されます。

プレストレストコンクリートとは、構造物に事前に張り付けたPC鋼線に張力をかけ、予め圧縮力を与えておくことで、その後の荷重や応力による変形を最小限に抑えられるコンクリートのことです。これにより、コンクリートがより高い強度を発揮し、大きなスパンの橋や高層ビルなどの建造物をより安全に軽量化できます。

PC鋼材は、JIS G 3536 PC鋼線及びPC鋼より線に規定され、「単線」と編み組みされた「より線」があります。

3. ばね (スプリング)

チャッキバルブなどのバルブスプリング、自動車のバルブスプリングやサスペンションやシートのばね、工業用機械のばねなどに使用されています。

ピアノ線の性質

1. 化学成分

ピアノ線は、JIS G3502 ピアノ線材 に規定され、このうち代表的なピアノ線材のSWRS82Aと、比較として代表的な硬鋼線材 SWRH82Aの化学成分を下記に記載しました。

種類

化学成分 (単位%)

C

Si

Mn

P

S

Cu

ピアノ線

SWRS82A

0.80~0.85

0.12~0.32

0.30~0.60

0.025以下

0.025以下

0.20以下

硬鋼線

SWRH82A

0.79~0.86

0.15~0.35

0.30~0.60

0.030以下

0.030以下

SWRS82Aを加工するとピアノ線B種 (SWP-B) になります。SWP-Bはピアノ線の代表的な鋼種で、流通量が最も多く一般的な材料です。なお硬鋼線材は、JIS G3506 鋼線材 として規定されています。

2. 機械的性質、許容差など

ピアノ線は、JIS規格に機械的性質として引張強さが、標準線径 (外径) 毎に規定されています。参考として、硬鋼線に関しても併記しています。

種類

標準線径 (mm)

引張強さ (N/mm2)

ピアノ線

A種

SWP-A

0.08 ~ 10.00

1,420 ~ 2,890

B種

SWP-B

1,620 ~ 3,190

V種

SWP-V

1,520 ~ 2,210

硬鋼線

A種

SW-A

0.08 ~ 13.00

1,320 ~ 2,450

B種

SW-B

1,520 ~ 2,790

C種

SW-C

1,810 ~ 3,140

また、線径の許容差、偏径差、ねじり回数、表面外観の傷、脱炭層深さなど、厳しい品質要求が規定されています。

ピアノ線と硬鋼線の規格比較 (φ2.0mm)

記号

ピアノ線

硬鋼線

SWP-B

SW-C

線経の許容差 (mm)

±0.015

±0.030

線経の偏径差 (mm)

0.004 以下

0.008 以下

ねじり回数

25回以上

20回以上

きずの深さ

0.02mm以下

規定なし

脱炭層深さ

有害な脱炭層を認めてはならない

規定なし

3. その他性質

ピアノ線の素材は高炭素鋼のため、高強度で高耐久性を備えています。製造工程は、素材の金属線をパテンチングと呼ばれる熱処理を行い、その後金型に通して引き延ばし成型する伸線加工 (ドローイング) を行います。素材のパーライト組織が微細化され引き抜き方向に整列された繊維状組織となることで高い引張強度になります。

また、ピアノ線で成形されたスプリングなどは、成形時の残留応力を除去し疲れ特性を維持するために、200~300℃で低温焼きなましを行うことがあります。

ピアノ線_図2

図2. 製造工程

ピアノ線の種類

JIS規格で規定されているピアノ線の種類は下記のとおりです。

種類

記号

適用線径

用途

ピアノ線A種

SWP-A

0.08 ~ 10.00 mm

主として動荷重を受けるばね

ピアノ線B種

SWP-B

0.08 ~ 8.00 mm

ピアノ線V種

SWP-V

1.00 ~ 6.00 mm

弁ばね又はこれに準ずるばね

A種に比べB種の方が引張り強さは高くなりますが、加工性は悪くなります。A種は、許容最大応力も高く、繰り返し荷重に対する疲れなどに適した特性があります。B種は、A種より許容最大応力と疲れにも強くなりますが、靭性が若干劣るため細かく精度の高い成形加工には適していない場合があります。

ピアノ線のその他情報

規格

ピアノ線が規定されている規格は下記があります。

  • JIS G3522 ピアノ線 (Piano wires)
  • JIS G3502 ピアノ線材 (Piano wire rods)
  • ISO 8458-1 Steel wire for mechanical springs − Part 1: General requirements
  • ISO 8458-2 Steel wire for mechanical springs − Part 2: Patented cold-drawn non-alloy steel

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