メチルカチオン

メチルカチオンとは

メチルカチオンとは、メチル (CH4) の水素原子がとれてメチルイオン (CH3+) となった状態のものを指します。これはカルボカチオンの一種で、他にも置換基が1つ付いた第一級カルボカチオン、置換基が2つ付いた第二級カルボカチオン、置換基が3つ付いた第三級カルボカチオンがあります。

メチルカチオンの使用用途

メチルカチオンは安定性がきわめて低く、溶液中でほとんど存在できないため、メチルカチオンが単体で反応に関与することはありません。他のカルボカチオンは、主に以下の2つの反応で、反応中間体として存在します。

1.SN2反応

SN1反応は一分子的求核置換反応とも呼ばれる反応です。分子内でハロゲンなどの有力な脱利基が存在する場合、それが脱離することでカルボカチオン中間体が生成します。その後、求核剤がカチオン部分を求核攻撃することで生成物が生じます。

SN1反応ではカルボカチオン中間体が生成する段階が律速であるため、安定性が高い三級カルボカチオンを生成する化合物などではこの反応が進行しやすいです。

2.E1反応

E1反応は1分子脱離反応とも呼ばれる反応です。こちらもSN1反応と同様に、三級カルボカチオンが発生しやすい化合物においてよく起こる反応です。

SN1反応と異なる点は、求核剤がカチオン部分の隣の炭素上の水素を引き抜く点です。このため反応後は、カチオン部分とその隣の炭素の間に二重結合が生じます。このとき、置換基の種類によって複数の幾何異性体が生じる可能性がありますが、多くの場合は熱力学的に安定なアルケンが優先的に得られます。

メチルカチオンのその他情報

1. メチルカチオンの性質

メチルカチオンの最大の特徴は、エネルギーが高く安定性がきわめて小さいことです。この原因として、メチルカチオンは他のカルボカチオン種で見られる超共役が起こらないためです。

超共役とは空のp軌道と隣接するC-H結合性軌道が相互作用することによって、電子の非局在化が起こり、エネルギーが下がる現象のことです。カルボカチオンにおいては、カチオン部分の隣に必ず炭化水素基が存在するため、超共役によってエネルギーの低下 (=安定性の向上) が起こります。

エネルギーの低下は隣接する炭化水素基の数が多いほど起こりやすいため、三級カルボカチオンが最も安定性が高く、炭化水素基をもたないメチルカチオンが最も安定性が高いです。

2. メチルカチオンの危険性

メチルカチオンは安定性が低くほとんど単体では存在できないものの、代謝物として発生すると癌を発症させることがあります。メチルカチオンを発生させる化合部室としては、主に以下の2つの例があります。

サイカシン
サイカシンは植物由来の発がん性物質で、主にソテツ類に含まれている配糖体です。サイカシンは、腸内細菌のβ-グリコシダーゼによって分解されると、ホルムアルデヒドなどと同時にメチルカチオンを発生させます。この生成したメチルカチオンは体内DNAやRNA、タンパク質などと反応することでそれらをアルキル化させます。その結果、DNAなどの生体物質は本来の機能を失い、がんが誘発されます。

ソテツ類は奄美大島などでは食用として古くから利用されています。その際は、水にさらすことでサイカシンを取り除いたり、日光の紫外線によって別の化合物に分解したりしてから食べられています。

ジメチルニトロソアミン
ジメチルニトロソアミンは主に魚類に含まれるジメチルアミンという物質が、胃の中で亜硝酸と反応することで生成します。ジメチルニトロソアミンは体内でシトクロムP450という酵素に酸化されることで、メチルカチオンを発生しDNAをアルキル化させて癌を発生させます。ノルウェーでは、このジメチルニトロソアミンを含むにしん飼料が原因で、食中毒事件も発生しています。

参考文献
https://yakugaku-gokaku.com/post-2571/
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/T1173

 

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