ホスファイトとは
ホスファイトとは、亜リン酸エステルなどの構造中に存在する[O-]3Pという構造のことです。
亜リン酸はP(OH)3の形を取り、この中の全てのOH基がエステル交換することで、生成するのがホスファイト構造です。ただし、亜リン酸エステルは亜リン酸のエステル交換ではなく、通常三塩化リンをアルコールで処理することによって生成されます。
亜リン酸のP(OH)3の構造は、ホスホン酸HP(O)(OH)2と互変異性し、ホスホン酸に平衡が偏っているため亜リン酸構造を安定して取りにくいからです。
ホスファイトの使用用途
1. 酸化防止剤
ホスファイト構造を含む亜リン酸エステル類は、高い還元性を有することから、酸化防止剤として幅広く使用されています。特に、合成高分子の酸化防止剤として有用であり、中でもポリ塩化ビニルなどのハロゲンを含むポリマーの酸化防止剤として有効です。
亜リン酸とどのような種類のアルコール類とを組み合わせるかによって、溶解性・変色性・耐加水分解性・対候性・熱安定性などといった性質が変わるため、使用用途の目的に応じて選択されます。ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンの加工時には、加工中の劣化を防ぐためにホスファイト構造を持つリン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤とを併用することが一般的です。
近年では、これらのホスファイト構造とフェノール構造を分子内に合わせ持った新しい酸化防止剤も販売されています。
2. 液体肥料
亜リン酸カリウムは、ホスファイトの名称で液体肥料として使用されます。ただし、その構造は必ずしも厳密なホスファイト構造を取らない場合もあります。リンは植物に必須の元素であり、窒素、カリウムと共に肥料の三大要素の1つです。
リンを亜リン酸の形で施肥した場合、リン酸と異なり、根だけではなく、葉からの吸収も可能となるため、効率的な施肥を行う子が可能です。亜リン酸塩の使用によって、窒素過多の改善、栄養生長から生殖生長へのスムーズな転換、果菜類や根菜類作物の肥大促進などの効果が期待されます。
ホスファイトの用途は多岐に沙汰がっていり、例えば、亜リン酸エステル類の1種である亜リン酸トリエチルは、アルキル化試薬・脱酸素試薬・脱硫黄試薬・殺虫剤合成中間体などとして用いられています。また、亜リン酸トリフェニルは、各種合成樹脂の安定剤・石油製品の酸化防止剤・各種亜リン酸エステルの中間体などとして利用されています。
その他にも、耐熱性向上剤や着色防止剤、極圧性向上剤、スコーチ防止剤、合成触媒、医薬、農薬用中間体原料など、用途は非常に幅広いです。
ホスファイトの性質
ホスファイト構造を持つ亜リン酸エステル類は、酸化されやすく高い還元作用を示します。酸素原子を取り込んだ、リン酸エステルOP(OR)3に酸化され、この構造はより安定です。この性質はある種の還元剤として使用され、また他の物質の酸化を防ぐ酸化防止剤としても使用されます。
特にハロゲン化アルキルとの反応によるリン酸エステルへの反応は、ミカエリス・アルブゾフ反応と呼ばれます。この反応は、五価のリン酸エステルを始めとするリン酸誘導体の合成を行う上で有用な反応です。「Wittig-Horner反応」「Horner-Wadsworth-Emmons反応」とよばれる試薬合成に、しばしば用いられます。
また、亜リン酸エステルはルイス塩基であり、さまざまな金属イオンと配位錯体を形成可能です。立体障害の少ないトリメチルホスファイトやトリフェニルホスファイト、あるいはホスファイト構造を分子内に2つ持つジホスファイト構造の化合物が配位子や触媒として利用されます。ただし、亜リン酸エステル類は、加水分解の恐れもあるため、取り扱いには注意が必要です。
ホスファイトのその他情報
ホスファイトの安全性
ホスファイト構造を持つ化合物の毒性に関しては、決して高いものではありません。しかし、皮膚刺激性と目刺激性とが指摘されており、取扱い時には適切な保護具などを使用する必要があります。
また、法規制に従った保管及び取扱においては、引火や爆発の危険性はなく、安定と考えられる物質です。しかし、燃焼すると分解し、有毒なヒューム (リン酸化物など) を生じるほか、強力な酸化剤と反応したり、水と反応したりする性質があります。そのため、屋外へ放置するような保管方法は好ましくないです。