近赤外分光法装置とは
近赤外分光法装置とは、近赤外光を照射して得られる吸収スペクトル・透過スペクトルを分析する分析装置です。
近赤外線は中赤外線・遠赤外線と比較して吸収が極めて小さい特徴があり、切片化などの前処理を行わずに非破壊検査を実施できます。水分量や成分を迅速に測定することができ、化学・食品をはじめとして幅広い分野で活用されています。
近赤外分光法装置の使用用途
近赤外分光法装置は、前処理を行わずに非破壊検査が可能です。物質の水分量や成分を分析するために様々な分野で活用されています。主な活用分野と用途の例には下記のようなものがあります。
- 研究・開発: 物質の構造解析や化学反応のモニタリング
- 食品: 水分・脂肪・コレステロール値などの食品の成分分析、品質管理
- 製薬・化学品 (ポリマーなど) : 原材料の確認や製品の均一性の評価
- 農業: 作物の成分分析
近赤外分光法分析は、様々な製造業シーンにおける測定、原料の受け入れ試験や品質管理などに有用な装置です。
近赤外分光法装置の原理
1. 近赤外分光法
近赤外光 (英: Near-infrared, NIR) とは、概ね波長800~2,500 nm (波数12,500~4,000 cm-1) の領域の光を指します。この領域は、ちょうど可視光領域と中赤外光領域の中間です。
赤外分光法や近赤外分光法は、分子の振動によって生じる赤外線吸収を観測する分析手法です。分子内の原子を繋ぐ結合部分は結合の種類によって異なった伸縮振動を示すため、吸収された赤外線の波数を調べることで、官能基の種類を判別できます。
分子は赤外線の吸収によって基底状態から励起状態へ遷移しますが、このとき次のような3つの遷移状態があります。
- 基本音: 基底状態と1種類の量子数が1である励起状態との間の遷移。
- 倍音: 基底状態と1種類の量子数についてのみ2以上である励起状態との間の遷移。
- 結合音: 基底状態と2種類以上の量子数が1以上の励起状態との間の遷移。
近赤外分光法では倍音、結合音のみを中心として取り扱います。多数の倍音や結合音が重畳してバンドの帰属が容易でないため、グループ振動数という考え方で解析が行われます。
2. 近赤外分光法装置の特性
近赤外分光法装置は、切片作成などの試料の前処理が不要であり、そのままの状態の試料を測定することが可能であるという特徴があります。
検出器では、試料に吸収 (もしくは反射) されることにより、照射された赤外線からどの程度減少したかを測定しています。これによって得られるIRスペクトル (赤外吸光スペクトル) は、照射した赤外線の波数 (単位の表記:cm-1、読み:カイザー) を横軸に、透過率%Tを縦軸にとります。
定量分析においては、統計的手法によって検量線作成が行われます。検量線作成のための定量モデルとして、主成分回帰分析や部分最小二乗回帰が用いられることが多いです。
近赤外分光法装置の種類
近赤外分光法装置には、分散型とフーリエ変換型 (FT-NIR) があります。一般には、フーリエ変換型が使用されることが多いです。
1. 分散型
分散型の近赤外分光法装置では、分光器に回折格子を用い、試料を透過した後の光を分散させた後、各波長を順次検出器で検出します。
2. フーリエ変換型 (FT-NIR)
フーリエ変換型の近赤外分光法装置 (FT-NIR) では、干渉計を用いて干渉波を作り、これを試料に照射します。非分散で全波長を同時に検出した後、コンピュータ上でフーリエ変換を行って各波長成分を計算する方法です。
FT-NIRは、近赤外波長領域全体を同時に測定するため、短時間でスペクトルが得られます。感度に優れており、波長を分けるスリットを使わないため、S/N比を低下させることなく波数分解能を上げることができます。