ボルテックスチューブとは
ボルテックスチューブとは、圧縮気体を高温・低温の2つの気流に分離することができる装置です。
−40℃〜−60℃程度の超低温空気を発生することができる小型のピンポイント型の冷却装置として、工業的に使用されています。冷媒を必要とせず、駆動部品が無いため取り扱いが容易です。溶液やオイル冷却方法に比較して後処理が簡単であり、フロンガスなどを必要としないことから環境にやさしい冷却方法であるとされます。
ただし、圧縮気体は別途用意する必要があるため、コンプレッサーなどが必要です。別名には、ボルテックス管、ランク・ヒルシュ管、ヒルシュ管などの名称があります。
ボルテックスチューブの使用用途
ボルテックスチューブは、主にボルテックスクーラーに使用されています。ボルテックスクーラーは、工業生産の現場などで冷却ツールとして使われている装置です。主な用途例には下記のようなものがあります。
- 金属切削時の刃物冷却
- 工具研磨における冷却 (チップ、ドリル、バイトなど)
- 各種電子機器 (制御盤等) ・電子部品の冷却
- ヒートシールの冷却
- 電気制御機器の冷却
- ハンダ箇所の冷却
- ガスサンプルの冷却
- ドリルやカッター加工における冷却
- ミリング加工における冷却
- 表面研磨における冷却
- タイヤの研磨における冷却
- プラスチック加工、ポリエチレンフィルム加工における冷却
- 高温作業場で利用する冷房作業服
- 製鉄工業などの熱作業における暑さ対策用品
また、ボルテックスチューブは、冷風だけでなく温風も取り出すことができるため、クーラーとしてだけでなく温める用途でも用いることが可能です。具体的な使用例として、歯科用ドライヤーが挙げられます。
ボルテックスチューブの原理
ボルテックスチューブは、気体の高速回転によって発生する、渦流、圧縮、膨張、圧力差を利用して低温風と高温風に分離する仕組みです。具体的な分離の仕組み・流れは次の通りです。
- スパイラル流の形成
圧縮気体 (空気) をノズルからうず室内に噴射すると、気体は管壁に沿って高速で回転します。 - 圧力差の発生
壁面に沿ったスパイラル流の形成によって、ボルテックスチューブの管壁付近は圧力が高くなり、中心部分は圧力が低くなります。 - 温度低下
圧力差によって圧縮空気は中心へと移動します。移動とともに圧縮空気の膨張が起こり、温度が下がります。 - 空気の分離と流出
管壁に沿って壁面との摩擦が生じるため気体の旋回速度が次第に減少し、高温気体は流量比調節弁の円錐外周より、うず室の外へと流出します。一方、低温気体は、接線ノズル近傍吸引されてうず室中心部に気流が生じ、抽出オリフィスからうず室外へ流出します。
得られる冷風温度、冷却熱量は、用いる圧縮空気の圧力、温度、風量や、ボルテックスチューブのバルブで調整する冷風量、高温風量の比率によって異なります。
ボルテックスチューブの構造
ボルテックスチューブは、可動部や冷媒を必要としない装置です。通常の構造は下記の構成から成ります。
- うず室
長い直円管状の構造 - 接線ノズル
上記うず室の一端の円周上に設けられている - 流量比調節弁
円錐形で、接線ノズルと反対の端に取り付けられている - オリフィス
うず室のノズル側端に取り付けており、低温気体抽出を目的とする
ボルテックスチューブの種類
ボルテックスチューブには、温度範囲、流量、冷却能力、出力温度、フロー容量、騒音レベルなどの点で様々な種類があります。ノズル付きとなっている製品はチューブだけのものよりも、取り扱いが容易です。
また、らせん状のフィンを管の中に内蔵させるなどして、より効果を高めた構造の製品も開発されています。用途に合わせて様々な種類の製品が開発・販売されているため、使用目的に合わせて適切なものを選択することが必要です。
参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmemag/73/615/73_KJ00003075798/_pdf
https://yamatoh-tk.co.jp/research-and-development/
https://www.text-hack.com/2021/10/term-voltexcooler.html
https://www.monotaro.com/k/store/%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%20%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%96/