誘導コイル
誘導コイルとは、電磁誘導により起電力を発生させるために使用されるコイルです。
電磁誘導は、磁束が変動する環境下に導体をおくことで、起電力が生じ、電流が流れる現象です。この現象は、発電機、電動機、変圧器や変成器などの電気機器や、リレーや電磁石などの電気部品のように、コイルを有するものに必ず発生します。
本項の誘導コイルは、これらの機器や部品とは別に、この「磁束が変動する環境」を作り出すための装置として用いられます。別名は、インダクションコイルです。コイルに電流を流すことで磁場を作り出し、起電力を生じさせるだけではなく、磁気エネルギーを熱エネルギーに変換したり、火花などの放電を生じさせることにも用いられます。
誘導コイルの使用用途
1. 教育・研究
誘導コイルは、教育用の理科学実験において、高電圧を得るために用いられます。具体的には、クルックス管、スペクトル管、クロス真空計など各種の放電管の実験と観察に使われます。
歴史的には、真空放電管 (ガイスラー管、プリュッカー管、クルックス管など) の研究に用いられ、電子の発見に貢献しています。これらの装置は、誘導コイルを利用して、真空にしたガラス管の電極に高圧を加え、ガラス管の内部に放電を発生させる仕組みです。レントゲンによって開発された最初のX線装置にも、誘導コイルが用いられていました。
2. 工業的用途
自動車などの点火装置に用いられるイグニッションコイルも誘導コイルの一種です。イグニッションコイルとは、1つのコアと呼ばれる鉄心を軸に、2つのコイル (1次コイルと2次コイル) が巻き付けられた構造をしているコイルです。1次コイルへ電流を流したり遮断したりすることで磁束の変化が生じ、2次コイルに高電圧が発生します。このとき2次コイルに発生した高電圧を利用して自動車のガソリンは着火されています。
日本では1960年代以降、金属の溶解に誘導加熱が使われるようになり、専用のコイルが作られています。
3. 家庭での用途
日本では1974年以降、家庭用の電磁加熱調理器、別名IHクッキングヒーターが普及してきました。
この調理器では、コイルによって発生する交流磁界により、コイルの上方に置いた金属製の調理器具に渦電流を誘起させ、それによる熱で加熱します。
ワイヤレス給電の送電側に用いられるコイルも、誘導コイルです。
誘導コイルの原理
1. 電磁誘導の原理
電磁誘導は、コイルなどの導体を磁束が変化する環境に置くと起電力が発生する現象です。最も簡単な例では、コイルの中に棒磁石を出し入れする現象があります。レンツの法則により、このとき生じる誘導電流は、「外部要因による磁界の変化とは反対向きに磁場を発生させる向き」に流れます。
ファラデーの電磁誘導の法則により、起電力 (V) をε、磁束 (Wb) をΦ、コイルの巻数をNとすると、
ε = -N・(dΦ/dt)
と表されます。
2. 誘導コイルの原理
誘導コイルは、電磁誘導を引き起こすための磁場を発生させる1次コイルのみを指す場合と、1次コイルと2次コイルの2つから構成され、1次コイルに電流を流して生じる磁界の変化により2次コイルに高電圧を発生させるようにした装置を指す場合の2種類があります。
2つのコイルから構成されるものの典型例では、1次コイルと、2次コイルを同じ鉄心に巻いて構成します。通常、1次コイルは巻数が少なく、2次コイルは巻数が多いです。1次コイルに直流電流を流しますが、一定の電流を流している間は鉄心を貫く磁束は一定であり、変動しないため、2次コイルには誘導起電力は発生しません。しかし、1次コイルに流れる電流を流したり止めたりすると、その度に磁束の変化が起き、2次コイルに高圧の起電力が発生します。
誘導コイルの種類
誘導コイルは、「電磁誘導を起こすことで起電力を発生させるコイルである」という点のみによって定義され、個別の規格が定められているわけでは有りません。そのため、用途に合わせた様々な種類の製品があり、あるいは特注で製作してもらうこととなります。
多くのコイルやインダクタ、それらを用いた部品や機器と同様に、コイルの芯には、空芯のものや鉄芯のものがあります。空芯は、透磁率が小さく、磁束が飽和しない特徴があります。一方、鉄芯コイルは透磁率が大きいことが特徴です。