組織切片スライサー
組織切片スライサーとは、研究や臨床において、標本化や培養などの目的で細胞組織を薄くスライスする(切片化)ための装置です。
臨床においては、組織標本を作製し顕微鏡などで病変を解析する組織検査のために用いられる他、研究においては免疫組織化学や電気生理学をはじめとした各種分野において分析対象の組織標本を作製する用途で用いられます。人体の細胞組織のほか、研究においては、動物や植物など様々な生物の細胞組織の標本化に用いられる装置です。ミクロトーム、マイクロスライサーなどの名称で呼ばれていることもあります。
組織切片スライサーの使用用途
1. 臨床
組織切片スライサーは、臨床においては、病変部を含む組織から組織標本を作製することに用いられます。使用されるのは、外科的手術によって摘出された臓器や、診断目的で採取された組織片などです。作製した標本は、顕微鏡などで観察され、診断が行われます。
これらの組織検査は、「生検」とも呼ばれます。一方、病理解剖によって取り出された臓器 (剖検) については、後述する病理組織学で用いられます。
2. 研究
研究分野において、組織切片スライサーは、病理組織学をはじめとする各種医学・生物学分野で使用されます。
病理組織学とは、組織や手術で採取した生検組織、もしくは病理解剖によって取り出された臓器を顕微鏡で観察し、研究する学問です。組織切片は染色処理され、色素や抗体によって組織やタンパク質成分が可視化されます。その他、組織切片を用いる医学分野は、免疫組織化学、酵素学や毒性学などです。組織切片は標本化だけではなく、腫瘍組織などの培養に用いられる場合もあります。
また、組織切片スライサーは人体のみではなく広く組織細胞一般に使用可能です。動物や植物などの細胞組織研究に用いられます。動物組織の物質代謝研究、電気生理学、スライス培養、イメージングなどの用途例があります。
3. 切片化可能な組織 (臓器)
組織切片スライサーは、下記の組織から切片が調製可能です。製品機種にもよりますが、人体のほか、ラット、マウス、モルモット、ひよこ、ブタ、魚類など広く使用することが可能です。
- 脳 (視床下部、大脳皮質、海馬、小脳、プルキンエ細胞など)
- 脂肪
- 心臓
- 肝臓
- 膵臓
- 副腎
- 肺
- リンパ節
- 脾臓
- 筋肉
- 生殖組織
- 脊髄
- 耳
- 眼
- ガン組織
また、植物を用いる場合、種・茎・根など、基本的にどの部位からでも切片化が可能です。
組織切片スライサーの原理
組織切片スライサーは、試料台に置かれた組織試料を刃で切断して薄片化します。固定した試料台に対して刃を移動させる「滑走式」(別名はユング型、シャンツェ型など)と、固定した刃に対して試料台の方を動かす「回転式」(別名は、ロータリー式、ミノー型、ザリトリウス型など)の2つの形式に分類されます。
また、ビブラトーム/振動ミクロトームと呼ばれる種類は、高周波振動する刃を細かく振動させて試料を切る装置です (振動切削) 。製品によっては、試料をアガロース包理してから切断します。アガロース包理によって刃の振動が伝わりにくくなるため、組織の損傷が最小限になります。細胞内外の構造が保持され、安定して染色やイメージングを行うことが可能です。また、細胞を培養する場合も生細胞を多く得ることができます。
組織切片スライサーの種類
組織切片スライサーは様々な種類がある装置です。前述の通り、動作機構には滑走式や回転式、振動ミクロトームなどがあります。また、滑走式の中にも、刃が浮かないよう重りがついたものや、滑走レールを挟み込むようにして刃を保持する機能を備えたものなど、バリエーションがあります。
振動ミクロトームにも、切開や厚み調整を全自動で行うものや、厚み調整を手動で行う半自動のものなどがあります。また、装置によって、大きさが異なりますが、小型のものでは安全キャビネットやクリーンベンチ内での仕様が可能です。尚、機種によって取り扱い可能な細胞組織の種類が変わります。使用の際は、用途に合わせて適切に選択することが必要です。