ベンジル

ベンジルとは

ベンジルとは、黄色の結晶もしくは結晶性粉末の有機化合物です。

国内法令上の規制は特にありませんが、保管に関してガラスを安全な容器包装材料とし、注意事項は「直射日光を避け、換気のよいなるべく涼しい場所に密閉して保管すること」とされています。

ベンジルの使用用途

ベンジルの用途には、印刷の製版に以前から使用されていた「光硬化性樹脂」の光増感剤としての利用が挙げられます。写真材料の分野では増感剤は、限られた波長以外の光でも反応するようにした「光学増感剤」と光の感度をよくする「化学増感剤」に使い分けられています。

光増感剤は、写真の感度向上に寄与しているといわれ、光硬化性樹脂は多方面へ活用することが可能です。そのほか、医薬品分野では中間体として、また重合反応の開始剤といった方面で使用されています。

ベンジルの性質

ベンジルは密度が1.23 g/cm3の固体です。エタノールやエーテルに溶けますが、水には溶けません。

融点は94〜97℃、沸点は346〜348℃、引火点は180℃です。化学式はC6H5COCOC6H5、分子量は210.23、CAS登録番号は134-81-6です。

ベンジルの構造

ベンジル (英: benzyl) は、芳香族のジケトンです。ジベンゾイル (英: dibenzoyl) 、ビベンゾイル (英: bibenzoyl) 、ジフェニルグリオキサール (英: diphenylglyoxal) などの別名を持っています。なお、ベンジルの構造式は、C6H5-C(=O)-C(=O)-C6H5と表されます。

ベンジルのその他情報

1. ベンジルの合成法

ベンジルの合成

図1. ベンジルの合成

研究室でベンジルを合成する場合には、ベンズアルデヒド (英: benzaldehyde) をベンゾイン縮合 (英: benzoin condensation) によって、2-ヒドロキシ-1,2-ジフェニルエタノンであるベンゾイン (英: benzoin) を得てから、硝酸硫酸銅(II)などで酸化することで生成します。

ベンゾイン縮合とは、触媒としてシアン化物イオンを用いることで、芳香族アルデヒドが2量体化して、α-ヒドロキシケトンであるアシロイン (RC(=O)CH(OH)R’) を生成する化学反応のことです。代表的な芳香族アルデヒドのベンズアルデヒドから、ベンゾインが生成するため、ベンゾイン縮合と呼ばれています。

2. ベンジルの反応

強塩基をベンジルに作用させると、フェニル基の転位が起こって、ベンジル酸の塩が生じます。これをベンジル酸転位と呼びます。

3. ベンジル酸転位

ベンジルを用いたベンジル酸転位

図2. ベンジルを用いたベンジル酸転位

ベンジル酸転位 (英: benzilic acid rearrangement) とは、有機化学における転位反応の一つです。水酸化カリウムをベンジルに作用させると、フェニル基が1,2-転位を起こし、ベンジル酸のカリウム塩を与えます。この反応はユストゥス・フォン・リービッヒ (英: Justus Freiherr von Liebig) によって示されました。

脂肪族の1,2-ジケトンを基質として 、α-ヒドロキシカルボン酸を合成した例も知られています。

4. ベンジル酸転位のメカニズム

ベンジル酸転位のメカニズム

図3. ベンジル酸転位のメカニズム

量子化学計算の結果によって支持されている機構は、上図の通りです。まず反応は、1のカルボニル基に対して、ヒドロキシドアニオンの付加によって開始します。

付加体2から3への軸回転後に起きる、4へのR基の1,2-転位は協奏的です。溶媒の水と4の間で、プロトンの移動を起こして、5になります。酸で処理した段階で、6が生成します。

5. ベンジルの関連化合物

ベンジル基 (英: benzyl group) 構造はC6H5CH2-であり、トルエンからメチル基の水素1個を除いた構造です。ベンジルと名前が似ていますが、全く異なります。

ベンジル酸 (英: benzilic acid) も水酸化カリウムとアルコールの混合物を、ベンジルとともに熱することで作られる化合物です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0102-0815JGHEJP.pdf

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