臭化水素とは
臭化水素とは、臭素と水素の化合物で、刺激臭をもつ無色の気体です。
法律上の名称はブロム水素で、空気中の湿気により、白煙を生じることも特徴です。臭化水素には毒性があり、眼や気管支の粘膜を侵し、呼吸困難を起こす恐れもあります。
また、臭化水素は消防法にて「消防活動阻害物質」に、毒物及び劇物取締法にて「劇物」にそれぞれ指定されています。労働安全衛生法には「名称等を通知すべき危険物及び有害物」「名称等を表示すべき危険物及び有害物」に指定されており、取り扱いには注意が必要です。
臭化水素の使用用途
臭化水素は、医薬品や臭化水素酸、および各種臭化物の合成原料などとして用いられている他、汎用試薬としても利用されています。化学工業の分野においては、アルキル化触媒や還元剤として使用されています。
さらに、臭化水素には高品質の半導体材料ガスとしての用途もあり、エッチングガスやクリーニングガスとして利用可能です。臭化水素の水溶液である臭化水素酸は、ポリエステル繊維の原料であるテレフタル酸の製造における触媒や各種ブロム塩類・臭化アルキルの原料として使用されており、重要な化学品です。
臭化水素の性質
臭化水素には腐食性や不燃性があります。密度は3.307g/L、融点は–86.80℃、沸点は–66.38℃です。
ハロゲン化水素の1つで、水素と臭素からなる化合物です。直線形の分子であり、化学式はHBrで、モル質量は80.912です。低温環境下で臭化水素は、水和物の結晶を形成します。
臭化水素はエタノールやアセトンなど酸素を有する有機溶媒に易溶です。水にもよく溶け、水溶液は強酸を示します。臭化水素の水溶液は臭化水素酸と呼ばれていて、47.63%の臭化水素酸は沸点124.3℃の共沸混合物です。
共沸混合物に近い48%程度が市販品として一般的で、医薬用外劇物の指定を受けています。水に対する溶解熱はΔH° = –85.15kJ/molであり、ハロゲン化水素の中で最大です。塩酸に性質がよく似た1価の強酸で、酸化されやすいです。
例えば、空気によって酸化したり、光によって分解して臭素を遊離したりすることで、黄色味を帯びることもあります。さらに、臭化水素の還元作用は、塩化水素 (HCl) よりも強力です。
臭化水素のその他情報
1. 臭化水素の合成法
臭化水素は触媒を用いて、水素と臭素の反応によって生成します。臭化物とリン酸を反応させるか、赤りんと水の混合物に臭素を作用させることによって、臭化水素を得られます。
それ以外にも実験室規模では、さまざまな合成法があります。例えば、テトラリン (英: tetralin) の臭素化です。キシレン中においてトリフェニルホスホニウムブロミド (Ph3PH+Br−) を還流して熱分解することで、無水の臭化水素を得ることもできます。
ただし、塩化水素や塩酸とは異なり、臭化水素や臭化水素酸の製造規模は小さいです。初期の製造法は200〜400℃ほどの高温で、水素と臭素を反応させていました。通常工業的な反応では、白金やアスベストを触媒として用います。
2. 臭化水素の反応
アルコールを用いたブロモアルカンの生成のために、臭化水素は利用されます。ブロモアルカンは、臭化水素のアルケンへの付加でも得ることが可能です。
アルキンに臭化水素を付加させるとブロモアルケンが生成し、通常立体化学はアンチ型 (英: anti form) です。ハロアルケンへの臭化水素の付加においては、マルコフニコフ則 (英: Markovnikov’s rule) に従い、gem-ジハロアルカンが得られます。
その他、臭化水素はラクトンやエポキシドの開環反応だけでなく、ブロモアセタールの合成反応にも使用されます。多種多様な有機反応において、臭化水素は触媒として利用可能です。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0108-0104JGHEJP.pdf