水酸化ニッケルとは
水酸化ニッケルとは、ニッケルの水酸化物です。
水酸化ニッケルには、ニッケルの酸化数が1、2、3の水酸化ニッケル (I) 、水酸化ニッケル (II) 、水酸化ニッケル (III) が存在します。これらの化合物のうち、最も一般的なのは水酸化ニッケル (II) です。
水酸化ニッケルは、労働安全衛生法にて「名称表示物質」「名称通知対象物質」「特定化学物質等」に、化学物資管理促進法にて「特定第一種指定化学物資」に、それぞれ指定されており、取り扱いには注意が必要です。
水酸化ニッケルの使用用途
水酸化ニッケル (II) は、ニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池、リチウムイオン電池などといった充電式電池の活物質や添加剤として、携帯電話や電動工具、デジタルカメラ、ハイブリッド自動車などに使用されています。電池の正極材料として用いられる水酸化ニッケルの表面に、高導電性のコバルト化合物を被覆することで、電池を高性能化することも可能です。
また、水酸化ニッケルは、表面処理薬品の原料やメッキ薬品、各種触媒などとして用いられる場合もあります。
水酸化ニッケルの性質
1. 水酸化ニッケル (I)
水酸化ニッケル (I) は、暗い青色の沈殿物で、ほとんど水に溶けません。HN (SO3H)(SO3) Niを塩基性にすると、水酸化ニッケル (I) の沈殿が生じます。水酸化ニッケル (I) の沈殿は、容易に湿気によって分解します。
水酸化ニッケル (I) とアルカリ金属の硫化物を反応させると、硫化ニッケル (I) が沈殿として得ることが可能です。シアン化アルカリとの反応では、トリシアニドニッケル (I) 酸イオンを生じます。
2. 水酸化ニッケル (II)
水酸化ニッケル (II) は、アルカリ水溶液にはほぼ溶解しませんが、シアン化カリウム水溶液やアンモニア水には錯体を形成して溶解します。希酸に溶けますが、水には不溶です。
3. 水酸化ニッケル (III)
水酸化ニッケル (III) の密度は4.84g/cm3、融点は600℃です。
水酸化ニッケルの構造
1. 水酸化ニッケル (I)
水酸化ニッケル (I) は、1価のニッケルの水酸化物です。化学式はNiOHで、モル質量は75.70です。
2. 水酸化ニッケル (II)
水酸化ニッケル (II) は、2価のニッケルの水酸化物です。化学式はNi(OH)2で、モル質量は92.7081の淡緑色の結晶です。結晶構造は六方晶系の水酸化カドミウム型構造を取っています。格子定数はa = 3.117Å、c = 4.595Å、密度は4.15g/cm3です。
3. 水酸化ニッケル(III)
水酸化ニッケル (III) は、3価のニッケルの水酸化物です。はっきりと確認されていない化合物ですが、ブラックニッケルオキシドはよくNi2O3と書かれます。モル質量は165.39です。
有量は77%付近ですが、Ni2O3のニッケル含有量が70.98%なので、実際には不定比の酸化ニッケル (II) だと考えられています。ニッケルの表面にわずかに存在するNi2O3、もしくはニッケルの酸化における中間体とも言われています。
水酸化ニッケルのその他情報
1. 水酸化ニッケル (II) の合成
ニッケル (II) 塩の水溶液に水酸化アルカリを加えることによって、水酸化ニッケル (II) が生成されます。ただし、塩基性塩の沈殿が混入しやすいため好ましくありません。
硝酸ニッケルとアンモニア水の反応で錯体にしたヘキサアンミンニッケル (II) 塩 ([Ni(NH3)6]2+) 水溶液に、水酸化カリウム水溶液を加えることで良好な沈殿を得ることが可能です。水溶液から沈殿させると、Ni(OH)2・1.5H2Oが生成し、真空中で放置すると無水物になります。
2. 水酸化ニッケル (II) の反応
水酸化ニッケル (II) を230℃に熱すると、水を失って酸化ニッケル (II) に分解されます。ただし、完全に脱水するためには、赤熱することが必要です。
水酸化ニッケル (II) は空気や過酸化水素では酸化されませんが、オゾンによって容易に酸化され、水酸化ニッケル (III) に変化します。