引き抜き加工とは
引き抜き加工とは、長さのある金属材をダイ (金型) に通した状態で、金属材を引っ張ることにより目的の形状・肉厚に成形する加工方法です。
塑性加工に分類される加工方法で、複数回にわたって径の異なるダイを用いることにより所望の肉厚を得ることができます。引き抜き加工は、金属材を引っ張ってダイを通します。
径の異なるダイをあらかじめ複数設置しておけば、連続工程で被加工材を目標とする肉厚に加工できる点がメリットです。引き抜き加工は、押し出し加工と似た加工方法であるため、混同されることが多々あります。
しかし、引き抜き加工は高温を加えなくても加工できるのに対して、押し出し加工は高温を加えなければ加工できない点が大きな違いです。
引き抜き加工の使用用途
引き抜き加工は、長さのある部品あるいは細い部品を大量製造する際に使用される加工方法です。引き抜き加工によって製造される部品の例を挙げると、注射器の針、電線、自動車用のシャフト、レール部材などがあります。
精度が問われる製品にも使用されるため、特に医療製品や工業製品に使用される場合が多いです。引き抜き加工は、加工を繰り返すことで、被加工材をマイクロ単位の極小サイズの部品へ加工することもできます。
極小サイズの部品へ加工できる利点を活かして、LSI用のボンディングワイヤなども加工することが可能です。その他、半導体材料の加工にも使用されます。
引き抜き加工の原理
引き抜き加工の原理は、金属材を金属材よりも径の小さなダイに通し引っ張ることで、小さい径の金属材へと加工するというシンプルなものです。金属材が徐々に細く長く伸ばされていくことで、所望の肉厚の部品に加工されます。
金属材は引っ張られることで引っ張り強度が高まり、加工部品の強度が高まる効果があります。切削や研磨とは異なり、削らずに所望の肉厚に加工できるため、高価な金属素材であっても加工ロスが少ない点が特徴です。
加えて、切削や研磨よりも同一形状の部品を製造する場合に、加工速度が速く効率的に精度良く大量製造できる点も引き抜き加工のメリットと言えます。引き抜き加工においては、金属材の加工物の表面は摩擦によって磨かれ光沢を帯びた仕上がりになります。
しかし、引っ張り加工では金属材とダイの間に潤滑油を流しながら引っ張りますが、潤滑油の塗布が不十分だった場合、加工品に焼き付きと呼ばれるシマ模様ができてしまうことがある点がデメリットです。また、ダイが徐々に摩耗するため、定期的にダイの交換も必要になります。
引き抜き加工の種類
引き抜き加工には主に、単純引き抜き加工、菅の引き抜き加工、ローラーダイス引き抜き加工、タークスヘッド引き抜き加工の4種類があります。それぞれ引き抜き加工の原理は同じですが、加工するための機械が違ったり、用途が違ったりします。
それぞれの特徴は、以下のとおりです。
1. 単純引き抜き加工
単純引き抜き加工とは、引き抜く部材を単純に引き抜く加工方法です。一般に引き抜き加工というと、単純引き抜き加工のことを指します。
2. 管の引き抜き加工
管の引き抜き加工とは、ストローなど空洞を作るために利用される加工方法です。管の引き抜き加工には、外径を小さくするための空引き、管を広げるために利用される心金を用いて滑らかに仕上げる心金引き、細い管を作るために利用される浮きプラグ引きなどの加工方法があります。
3. ローラーダイス引き抜き加工
ローラーダイス引き抜き加工とは、引き抜く際にローラーが摩擦によって回転する引き抜き加工です。小さい力で引き抜くことができるため、不要な変形を防げるというメリットがあります。
4. タックスヘッド引き抜き加工
タックスヘッド引き抜き加工とは、上下左右の全方向に設置されたローラーに材料を通して引き抜く加工方法です。丸棒から角棒へ加工できる点が特徴で、変形の自由度が高いです。