熱膨張測定とは
熱膨張率測定とは、製品や部品、材料などが温度変化によってどれだけ寸法が変わるかを精密に測定することです。
金属、ガラス、セラミック、樹脂などの広範囲な材料に対して実施されています。物質が単位温度上昇あたりにどれだけ膨張するかを表す定数は熱膨張係数によって表されます。熱膨張率測定によって求められる最もよく知られた物理量です。
熱膨張測定の使用用途
熱膨張率測定は、製品や部品、材料などで、温度変化による大きさの変化が品質に及ぼす影響が懸念される場合に実施されます。
例えば、金属と樹脂などの異種の材料でできた電子部品などでは、一般的に樹脂の方が金属よりも熱膨張率が大きいため熱による膨張で変形し、故障や破損に至る場合があります。このような場合には、熱膨張率測定を実施して温度の変化による部品への影響を定量的に評価します。
また、自動車や航空機に使われる部品は、使用状況によって大きな温度変化が生じます。部品の熱膨張試験を実施することで、部品の大きさの変化量をあらかじめ予測できるので、それを盛り込んだ安全設計が行われています。
このほかに熱膨張率測定は、セラミックス、複合材、ガラス製品、樹脂製品、無機化学製品、金属製品、電子・電気製品や、ゴムのように弾性を持ったエラストマーなど、工業製品の広範囲の分野で実施されています。
熱膨張測定の原理
熱膨張率測定は温度の変化による試験体の大きさの変化量を求める精密測定です。
熱膨張率測定は、高精度なものはナノメーター (nm) レベルでの変化量を計測します。測定結果に正確性を持たせるためには、試験体を正確に加熱、冷却、または等温に保つことができる器具と、その中に置かれた試験体の大きさを正確に測定できる計測器具が必要となります。
試験体の温度をコントロールするファーナスは、通常、耐熱性の高い材料で作られており、小型の炉のような外観をしています。ファーナスの内部には試験体を加熱するためのヒーターや冷却するための冷却管が内蔵されていて、内部の温度を-170℃未満から2,000℃以上までの広い範囲で制御できるようになっています。
試験体の大きさの変化を読み取る方式には、プッシュロッドと言われる棒を試験体に当て、試験体の大きさの変化によってプッシュロッドが移動した量を光学式エンコーダーにより高解像度で測定する接触式の方法が多く用いられています。プッシュロッドの試験体への当て方には、水平方向に行う水平式熱膨張率測定装置と、垂直方向に行う垂直式熱膨張率測定装置があります。
また、柔らかい試験体、壊れやすい試験体やプッシュロッドを当てることで非可逆的変化を起こす試験体に対しては、光学式熱膨張率測定装置が使用されます。光学式熱膨張率測定装置は試験体に平行な光を当てて影を作り、その影の幅を精密測定することで熱膨張率を計測します。
熱膨張測定の種類
熱膨張率測定は、熱膨張係数 (英: Thermal expansion coefficient) あるいは熱膨張率 (英: Coefficient of thermal expansion) を測定するために実施します。この2つは同じもので、物質の温度変化に伴う体積または長さの変化率を表す物理量です。
また、物質の温度変化に伴う長さの変化の割合を表す係数のことを線膨張係数 (英: Linear expansion coefficient) 、物質の温度変化に伴う体積の変化の割合を表す係数のことを体膨張係数 (英: Volumetric expansion coefficient) と言い、熱膨張率測定で求めます。
さらに、応力とひずみの比で、材料の弾性的な変形特性を表す物理量をヤング率 (英: Young’s modulus) といい、ヤング率と熱膨張係数を組み合わせた物理量で、材料の熱応答特性を表すヤングの熱膨張係数 (英: Young’s thermal expansion coefficient) を求める際にも熱膨張率測定を行います。
他には、鋼や合金を急加熱や急冷をしながら熱膨張率測定をすることで、鋼や合金に相転移や組織変化が起ったことを知ることができます。この測定には急冷型熱膨張率測定装置を使用します。但し、鋼や合金の相転移や組織変化は、温度変動以外の要因も重なって起こることに留意が必要です。
熱膨張測定のその他情報
熱膨張による試験体の寸法の変化を測定する方法
熱膨張による試験体の寸法の変化を測定する方法には、棒を使った接触式の測定方法と、試験体に光を当ててできる影の長さを観察する非接触式の測定方法があります。
接触式
接触式の熱膨張率測定装置としては、プッシュロッド式膨張計があります。この装置は、試験体にプッシュロッドによる機械的接触を介して寸法変化を測定します。
非接触型
非接触型の熱膨張率測定装置は、装置内で水平においた試験体に完全な平行光を当てて、その光が作る影の長さを測定して寸法変化を測定します。非接触型の熱膨張率測定装置は表面が軟らかい部品の測定や、粉体の体積の測定などに有効です。
いずれの場合にも、熱膨張率の測定においてはファーナスと言われる加熱装置の中に試験体をおいて、所定の温度まで加熱し温度を安定させた後に測定を実施します。