ハイドロゲルとは
ハイドロゲルとは、高分子などの固体が水を吸い込んで膨潤し、流動性がない形態(ゲル)となった物質の総称です。例えば、多糖類やゼラチンなどの高分子鎖が架橋されて三次元網目構造をとると、網目構造のなかに多くの水を含んで膨潤体となり、水に溶けることのできない状態になります。具体的な例として、こんにゃく、寒天や、ゼリーなどが挙げられます。
図1. ハイドロゲルのイメージ
ハイドロゲルの使用用途
ハイドロゲルは豆腐、寒天など食べ物に含まれるほか、ソフトコンタクトレンズや紙おむつの吸収体(高吸水性高分子)などでも使用されています。組成が生体軟組織に類似していることから、近年は医用材料としての利用法が模索されていますが、体内の水分を吸収することで特性が失われてしまう点などは解決すべき課題です。
具体的な例としては、人工軟骨や人工椎間板としての利用や、薬を徐放する素材としての利用、また、再生医療分野では、細胞の足場素材としての利用法が模索されています。ハイドロゲル上で細胞を培養したのち、還元剤によってゲルだけを溶解することで、細胞同士がくっついた細胞シートを作成し、損傷部に貼りつけて治療を行う方法に用いられます。
ハイドロゲルの原理・物性
1. 物理ゲルと化学ゲル
ハイドロゲルは架橋方法によって物理ゲルと化学ゲルに分類されます。
- 物理ゲル
水素結合やイオン結合、配位結合などで架橋されたもの - 化学ゲル
共有結合で架橋されたもの
具体的な例では、寒天やゼラチンなど、熱によって可逆的にゾル-ゲル転移するものは物理ゲル、紙おむつの高吸水性高分子やソフトコンタクトレンズなどの化学的に安定なものは化学ゲルです。
2. ゲル化の例
図2. アルギン酸ナトリウムのゲル化の例
よく知られているものに、天然高分子であるアルギン酸があります。アルギン酸のナトリウム塩は水溶性を呈しますが、Ca2+などの多価陽イオンを加えると、瞬時にイオン架橋が起きます。この際、架橋の網目構造に溶媒の水を取り込み、ゲル化(ハイドロゲル化)します。
ハイドロゲルの種類
図3. HEMAなどの従来素材の場合
HEMA (ヘマ:ヒドロキシエチルメタクリレート) は、水分を含ませると軟らかくなることから従来のソフトコンタクトレンズで使用されてきました。含水率を上げると酸素透過性が高まることから、含水率を高める試みや、レンズの厚さを薄くする工夫が行われてきました。しかし、含水率を高くすると水分が蒸発しやすくなるため、装用中に目が乾燥しやすくなり、技術開発には限界があるとされてきました。
図4. シリコーンハイドロゲルの場合
そこで、HEMAの課題を解決する新素材として、近年、シリコーンハイドロゲルが注目されています。シリコーンハイドロゲルは低含水率でありながら、高酸素透過性を示す素材です。酸素が直接コンタクトレンズを通るため、レンズ内の水分量に依存することなく、多くの酸素を届けることができ、目の負担を軽減できるというメリットがあります。
これまでコンタクトレンズで問題となってきた、角膜の角膜内皮細胞の減少などを軽減する効果が期待されています。また、含水率が低いため、レンズの装用中に目が乾燥しにくいことも良い点です。更に、シリコーンハイドロゲル素材の方が涙の中に含まれるたんぱく質が付着しにくく汚れにくい特徴も持っています。
しかし、親油性が高いので一度油分がついてしまうと落ちにくいとも言えます。そのため、アイメイクなど油分が付着しないように注意しなければなりません。課題は、低含水率故にHEMAよりも堅い素材であることであり、つけ心地を向上させる技術開発が行われています。
参考文献
https://med.m-review.co.jp/article_detail?article_id=J0027_1103_0057-0059
https://www.menicon.co.jp/whats/column/detail6.html
https://alcon-contact.jp/eyenavi/siliconehydrogel.html