セミドライ加工 (MQL加工)

セミドライ加工 (MQL加工) とは

セミドライ加工 (MQL加工) とは、​​金属の切削加工で大量の切削油の代わりに、非常にわずかな量の油剤を使って加工する方法です。

MQL (英: Minimum Quantity Lubrication) は微少量潤滑を意味します。半分ドライな状態で加工し、海外ではNDM (英: Near Dry Machining) 加工と呼ばれる場合もあります。

潤滑油を少量用いて金属加工を行うため、環境に優しいだけでなく省エネで経済的です。作業環境を改善し従業員の健康にも配慮できます。ノズルによってミストを工具の外部から塗布する方法以外にも、機械の内部から工具先端にミストを送り込む方法もあります。機械の内部からミストを送るとNC旋盤やマシニングセンタにも対応可能です。潤滑性が高くて生分解性のある植物油や合成エステルなどが、主に油剤に用いられています。

ウェット加工で低環境負荷を実現するために、1990年以降にセミドライ加工の研究開発が進められてきました。その一方で全く切削油剤を用いない加工をドライ加工と呼びます。ドライ加工と比較するとセミドライ加工では加工精度や表面仕上げが向上でき、切削工具の寿命を延長可能です。

セミドライ加工 (MQL加工) の使用用途

セミドライ加工 (MQL加工) では、加工点にわずかな油剤を塗布して金属などを加工します。わずかな量の潤滑油を加工箇所に噴霧するため、様々なメリットがあり、金属加工業界で注目されています。

セミドライ加工では材料の加工部分のみに加工油がかかり、もし付着した場合にも極微量であり、脱脂の必要もありません。加工油は全損式ですが、消費量はわずかで切削油に必要なコストが少ないです。廃油が出ず、大きなタンクも必要なく、廃油の処理コストも減ります。莫大なエネルギーを使用するクーラントシステムが必要ないため、節電効果も大きいです。多くのセミドライ加工専用油は植物性由来であり、環境負荷を低減できます。

その一方で、材料の熱変位や面粗度などが課題です。水溶性の切削油を用いたクーラント装置よりも冷却性が劣っています。流量が少なく切屑の排出に問題があり、供給ノズルの方法と数も検討が必要です。加工方法によっては利用が困難な場合もあり、専用工具が必要な場合もあります。

セミドライ加工 (MQL加工) の種類

セミドライ加工の潤滑方法には、水溶性ミストと油性ミストがあります。水溶性ミストでは水でミスト原液を20〜30倍に希釈して、切削点へおよそ10cc/分で高圧噴射します。潤滑と大きな冷却能が得られ、大型部品のドリルやウェット加工に使用可能です。

それに対して油性ミストでは、加工点へ5〜20cc/Hのような極微小の加工油を噴霧するため、加工熱の発生が小さい極小径ドリルや加工取代が小さいニアネット部品などに適しています。切刃蓄熱が大きい旋盤の連続切削では、冷却能が小さく適していません。機械の高速化や自動化に伴って、大流量かつ高圧のクーラントシステムに加工法が移ってきました。そして火災の危険性を考慮して、水溶性の切削油が多くなっています。

基本的にはミストはノズルから噴射されますが、ミストラインにミスト液を供給する多種多様な方法があります。具体的には、霧吹きタイプ、ルブリケータタイプ、定量ポンプ方式などです。霧吹きタイプは負圧によってミスト液を吸入し、ノズルでミストにしています。

ルブリケータタイプはミスト液タンクに加圧して、圧力差によってミスト液をミストラインに提供可能です。定量ポンプ方式では、市販のダイアフラムポンプを使用してミスト液を汲み上げて、ミストラインに提供します。

セミドライ加工 (MQL加工) の選び方

加工が容易な鋳鉄部品やアルミには、油剤を使わずに加工していた時期もありました。現在では生産性の向上や切屑の回収などの理由でウェット加工が一般的ですが、切削油剤を極限まで減らすために少しずつセミドライ加工が拡がってきました。

セミドライ加工では潤滑効果や冷却効果が得られますが、ウェット加工のように加工後の機械内部の洗浄効果や切屑回収機能はありません。ただしセミドライ加工に使うミスト液は微量なため、ほとんどの部品がドライ状態であり、洗浄工程は不要です。

ウェット加工では冷却関連の電力費が機械動力の4~6割ほどを占めると言われており、セミドライ加工では管理費や定期交換費用のようなあらゆる経費を削減できます。ウェット加工よりも、加工工程でのコストと環境負荷を大幅に減らせます。

さらにセミドライ加工では、潤滑剤をわずかしか用いないため職場をドライ状態に維持可能です。工場内の通路で滑ったり臭いが残る心配もありません。ミスト液には環境負荷物質が含まれておらず、ウェット加工よりも職場環境が良くなります。ただし、使用する工具刃具、加工の種類、材料の特性、加工対象の材質などで加工法を選択する必要があります。

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