表面処理薬品とは
表面処理薬品とは、表面処理の工程で使用する薬品を表面処理薬品のことです。
金属の製品や部品をはじめ、一部のプラスチック製品などは、その素材の表面に膜を付けたり化学反応を起こさせるなどして、素材の機械的性能を向上させています。機械的性能には硬度、耐腐食性、耐摩耗性、耐熱性、密着性、絶縁性と導電性などがあります。また、同様に素材の表面に光沢や色合いなど装飾加工を施す例も多くあります。
このように素材の表面に何らかの加工を施すことで性能を向上させることや付加価値を付けることを表面処理と言い、表面処理の工程で使用する薬品を表面処理薬品と言います。
表面処理の工程には、膜付けや化学反応の前に必ず素材の表面から異物を取り除く脱脂、酸洗、水洗などの洗浄があります。また、必要に応じて素材の表面を活性化することもあります。このような処理のことを前処理と言います。前処理に使用する薬品や、表面処理の後に行う洗浄で使用する薬品までを含めて、表面処理薬品と言うこともあります。
表面処理薬品の使用用途
表面処理薬品を使用する主な表面処理には、化学反応、めっき、アルマイト、電着塗装などがあります。
1. 化学反応
化学反応を用いた表面処理では、薬液の中に素材を浸して素材の表面で化学反応を起こさせて表面の材質を変えます。その代表例には鉄製品に対して行う黒染めがあります。黒染めは鉄の表面に化学反応で四酸化三鉄皮膜ができ、錆びにくくなります。黒染め加工では素材の外側に膜を付けるのと違って、素材の寸法がほとんど変わらないのが特徴です。黒染めに使う黒染め液が市販されています。
2. めっき
めっきは金属の素材に別の金属の皮膜を付ける代表的な表面処理技術であり、一部のプラスチック素材にも使用されています。めっきは見た目を綺麗にする装飾性能の向上をはじめ、耐食性、各種機械的性能の向上など多くの使用目的があります。
めっきには金属イオンが溶け込んだ溶液の中に素材を浸して、電界をかけて素材の表面に皮膜を形成する電界めっきと、その他の化学反応を利用した非電界めっきがあります。電界めっきと非電界めっきの両方共にめっき液を使用します。めっき液は多種多様なものが市販されており、素材と使用目的に応じて選ぶことができます。
3. アルマイト
アルマイトはアルミニウムの素材に酸化被膜を作る表面処理です。アルミニウムは空気中で酸化被膜を作ります。しかし、その皮膜は薄くて浸食されやすいので、より厚い皮膜を付ける表面処理がアルマイトです。アルマイトでは酸溶液中でアルミニウムを陽極電解し、表面に陽極酸化被膜を作ります。酸化被膜を形成した上で着色が行われる場合もあります。
4. 電着塗装
電着塗装では、樹脂などの非金属性の水溶性塗料を浸した液槽に素材を浸し、素材を電極として直流電流を流して、素材表面に塗料を電着させます。電着塗装では、素材をマイナス極として行う塗装をカチオン電着塗装と言います。カチオン電着塗装は防錆性に優れた皮膜を作れることから、自動車のボディの下塗り塗装に広く使われています。一方、素材をプラス極として行う塗装をアニオン塗装と言い、アルミに電着塗装を行う際などに使用されています。
以上の例は、代表的な表面処理ですが、実際にはさらに多くの表面処理方法があり、それぞれの方法は、さらに細分化されて段階的に工程が進められます。従って、多種多様な表面処理薬品が開発され、市販されています。
表面処理薬品の原理
表面処理はいずれの場合も、処理を行う前に素材の表面を整える前処理が必須になります。めっきや電着塗装の際に、素材の表面に脂分や錆びや不要な膜などが付いていると、成膜が上手く行かなかったり、後で膜が剝がれるなどの不良が発生します。黒染め塗装も、素材の表面に油汚れが残っていると塗装に色むらが発生します。
このような不良の発生を防ぐために、油成分を取り除く脱脂、錆びや汚れを落とす酸洗、薬液を落とす純粋洗浄などを確実に行った上で表面処理の本工程に移ります。
表面処理では、表面処理液を浸した液槽の中に素材を浸して処理を行います。その際に、薬液の濃度と温度の管理をはじめ、電気的な処理をする場合には、電極の位置や電界の強さなど、様々なパラメータの管理が重要になって来ます。このパラメータはノウハウの蓄積によって精度が向上します。そのため表面処理薬品をうまく使いこなすには、確実な前処理とノウハウの蓄積が重要です。
表面処理薬品の選び方
表面処理を行う際には、まず素材を選定し、どのような性能や機能を持たせたいかを考え、それに合った表面処理方法を選択します。表面処理の手法が定まったら前処理、後処理の工程も考えて、必要な表面処理薬品を選択します。
表面処理薬品は多種多様なものが販売されているため、専門家に相談しながら決定することが必要な場合もあります。