MEMSマイクとは
MEMSマイクとは、音声変換の箇所をMEMSコンポーネントで構成したマイクのことです。
プリント回路の基板上にMEMS素子が設置され、カバーされたマイク構造を有しています。MEMSとは「Micro Electronics Mechanical System」の頭文字を取った略語で、日本語訳は「微小電気機械システム」です。
マイクへの適用の場合には、薄膜微細加工技術により、Si基板上の振動板を作りこむことで、MEMSは音波を電気的信号に変換するトランスデューサー (変換器) の役割を担っています。MEMS素子では、同一基板上にICも集積可能なので、基板上に微小な機械部品と電子回路を集積させている事例が多いです。
MEMSマイクの使用用途
MEMSマイクの代表的な使用用途は、スマートフォン向けのマイクです。スマートフォンに限らず、様々なオーディオやアプリケーションに使用されています。また、バイオ、医療、自動車を含む機械などにも応用されており、近年注目を浴びています。
昨今のスマートフォンなどの電子機器の急速な普及に伴い、マイクロフォンの技術も発展してきました。人が多い場所でノイズを消して、通話するためには電子機器に複数のマイクロフォンを搭載する必要があります。
そこで、従来のECM (エレクトレット・コンデンサ・マイクロフォン) に代わる小型・高性能マイクとして、MEMSマイクが注目されている状況です。
MEMSマイクの原理
MEMSマイクの原理は、音波でMEMS素子である振動板が振動した際に、その容量値の変化を検出し電気信号に変換して出力する動作にあります。MEMS素子は非常に小型であり、ICとの集積も構造面で比較的容易なため、この出力された信号をIC側で増幅しアナログ信号の電圧・電流値として取り扱う場合や、もしくはデジタル信号化 (ADC) 処理の併用により、高効率なパルス幅変調 (PWM) 処理を行う場合が多いです。
MEMSマイク自体は基板にカバーで覆われた構造をしており、そのカバーには、マイクロフォン内部に音声が入り、MEMS素子で音声の検出可能なように、小さな穴が1つ開いています。MEMSマイクには、従来のマイクであるECMに比べ、小型である、耐熱性に優れている、リフローはんだ付けが可能、高音質、信頼性の向上、バッテリーの長寿命、コストダウンなどの数多くの利点があります。
特にMEMSマイクが適する場合は、電気的ノイズが多い環境のアプリケーションです。振動が多い環境下では、MEMSマイクの出力インピーダンスが比較的低く、また集積ICでのデジタル信号処理の併用でノイズ除去性に優れるために、この機械的な振動による有害ノイズレベルを低減することが可能です。
MEMSマイクのその他情報
1. ECMとMEMSマイクの比較
MEMSマイクと比較してECMの場合は、小型化しづらい、リフローが困難など、高密度な電子機器搭載時に使いにくい面がある一方で、従来から用いられてきたマイクであり、種類が豊富で過去の設計財産を活用しやすい、電源電圧範囲などの仕様が非常に多岐にわたる、音の方向性に優れた製品が存在する、といった現行のMEMSマイクにはまだない優れた面もあります。
MEMSマイクよりもECMの方がアプリケーション面で適する場合もあるので、状況に応じて適切な方を選ぶことが大切です。
2. AIスピーカーへの適用事例
2022年度の現在、多くの電子機器、特にスマートフォンではMEMSマイクが多数搭載されている状況です。今まではユーザーがMEMSマイクの性能のよさを体験することは少なかったのが現実であり、ECMからMEMSマイクへの置き換えが、市場において進んでいる実態は多くのユーザーには、あまり認知されていませんでした。
高性能なマイクが求められる近年話題のAIスピーカーはユーザーの体験の質に直接つながるため、MEMSマイクの恩恵を受けるはずです。実際にMEMSマイクの中のICにAIチップを搭載しクラウドフリーで数10種類のキーワードをAIで検出可能なMEMSマイクも、あるメーカーで研究開発されています。
近将来、家庭や自動車内で普通に存在するAIスピーカーがMEMSマイクの高性能な技術によって、その動作や音質が技術的に支えられていることを実感する日がやってくるのもそう遠い未来ではないでしょう。
参考文献
https://jp.cuidevices.com/blog/comparing-mems-and-electret-condenser-microphones
https://www.jp.tdk.com/tech-mag/hatena/069