磁壁

磁壁とは

通常の磁石は強磁性体と呼ばれる材料より構成されており、この強磁性とは磁石に物体が引き付けられる性質を言います。

強磁性を有する物質は、磁気モーメントと呼ぶ磁力の大きさを表すベクトル量を有する原子層レベルの磁石が詰まっていますが、磁性体がすべて、磁石の性質を表さないことからもわかるように、強磁性体内部は異なる磁気モーメントのそろった領域に分かれています。

この磁気モーメントのそろった領域を磁区といい、異なる方向の磁区の間の境界層のことを磁壁といいます。

磁壁の使用用途

磁区や磁壁は強磁性体やフェリ磁性体の挙動を解析し、実際に活用するための非常に重要な概念です。

身近なところで使用している事例としては、クレジットカードの裏面の帯やPCのハードディスク、電車やバスの切符や定期券の裏などがあげられます。これらの箇所には強磁性体が塗布されており、磁壁(磁区)の情報を0と1の人工的なデジタル情報として記録し、これらの記録媒体と情報を統合して扱うシステムとの固有のデータのやり取りに活用しています。

磁壁の原理

磁壁の原理を理解するために、わかりやすい事例としてよくあげられる事例に金属製の針やクリップでの物理現象があります。

購入したばかりの金属針やクリップは、それ自体は特に磁石の性質は有していませんが、これらを磁石でこするとクリップや金属針が互いに引き寄せられ、まるでそれ自体が磁石の性質を有したような挙動を示す事例をご存知でしょうか。

購入したばかりのクリップや針と、磁石でこすった後のそれらとは、実は内部の磁区や磁壁の分布が変化しています。前者は通常では左右(上下)に対称的な磁区の状態を有していますが、磁石でこすることで、これらの磁壁の分布は変化してしまいます。これは磁石と接した際に現れたS極とN極からなる磁場により、クリップや針内部の磁区や磁壁の分布が変化するため、磁石から離したとしても、格子欠陥や不純物により磁壁が途中でひっかかってしまい、最初のように対称的な磁区の状態に戻ることがないためです。

よって対称的な磁区の状態から崩れたクリップや針からは表面に磁極が残ります。つまり磁力線が外部に放出され、他のクリップや針などを引き付けるあたかもそれ自体が磁石になったかのような挙動を示すのです。

よく裏面の帯を有するクレジットカードや切符などを磁石に近づけないでくださいという注意がなされるのは、この磁壁(磁区)の状態が変化して元に戻らなくなることを避けるためです。

なお、新規の強磁性体材料やフェライトなどの製品の、磁気特性を解析するためにも、この磁壁の概念は用いられています。

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