マルテンサイト系ステンレス

マルテンサイト系ステンレスとは

マルテンサイト系ステンレスとは、ステンレスの中でも常温でマルテンサイトと呼ばれる結晶構造を有する合金の総称です。

主要な成分として鉄以外にクロムを含むため、同じようにクロムを主成分として含むフェライト系ステンレスとともに、クロム系ステンレスに分類されます。代表的なマルテンサイト系ステンレスはSUS403やSUS410などであり、13%のクロムを含みます。

マルテンサイト系ステンレスの使用用途

マルテンサイト系ステンレスは不動態形成に寄与するクロム含量が比較的少なく、耐食性がその他のステンレスに劣るため、腐食性条件下ではあまり用いられません。その一方で他のステンレスと比較して、安価かつ強度や耐熱性に優れているため、幅広い用途で使用されます。

具体例として、シャフトやボルトのような機械構造用の部品のほか、プラスチック射出成型用の金型などに利用可能です。また焼入れ焼き戻しによって硬度の向上がみられ、非常に硬いステンレスとして知られるSUS440やSUS420などの鋼種は、ナイフや医療用メスのような刃物によく用いられます。

マルテンサイト系ステンレスの性質

マルテンサイト系ステンレスの性質は鋼種によって様々ですが、共通する特徴として強磁性が挙げられます。

結晶構造が体心立方格子であるため、同様の結晶構造を持つフェライト系ステンレスも同様に強磁性です。それに対して面心立方格子であるオーステナイト系ステンレスは非磁性です。

焼き入れによって強度が向上し、焼き戻しによって耐摩耗性や靭性を強化できます。比較的炭素を多く含有しているため、高温で焼き入れすると結晶中の炭化物を固溶させて組織の硬化が起こり、冷却によるマルテンサイトへの再変態によって耐摩耗性や靭性を持たせることができます。

マルテンサイト系ステンレスは焼入れ焼き戻し処理を行って用いられる場合が一般的ですが、焼き戻しの温度によって得られる性質も異なります。具体的には150〜200°C程度の低温焼き戻しでは耐摩耗性が向上し、600〜750°Cで保持した後に急冷する高温焼き戻しでは靭性を向上可能です。一方で475°C付近などの特定の温度で焼き戻しを行うと、475°C脆化と呼ばれる減少により延性や靭性が低下します。

マルテンサイト系ステンレスの構造

マルテンサイト系ステンレスに含まれるクロムの量は、11〜18 %程度です。マルテンサイト系の組成は、高温状態で金属組織がオーステナイト単一組織やフェライトを少し含んだ二相組織になります。高温状態のオーステナイト中に添加された炭素が固溶し、急冷して焼入れすると変態を起こしマルテンサイト組織になります。

基本的な組成は、クロムが13%、炭素が0.2%です。代表例としてSUS410やSUS420J2が挙げられます。SUS410はクロムが11.50〜13.00%、炭素が0.15% 以下で、SUS420J2はクロムが12.00〜14.00%、炭素が0.26〜0.40%です。これらの鋼種は13Cr鋼、13%Cr鋼、13Cr系、13クロムステンレス、13クロムステンレス鋼とも呼ばれます。

マルテンサイト系ステンレスの選び方

ステンレスにはマルテンサイト系のほかにも、フェライト系やオーステナイト系があります。結晶構造が変わると性質も変化するため、用途に合わせてステンレス製品を選ぶ必要があります。

1. マルテンサイト系

主に刃物類や機械のブレード部品に使用され、焼入れによって硬化します。

2. フェライト系

建物内装、自動車部品、業務用厨房などに用いられます。焼入れで硬化せず、応力腐食割れに強いため、経済性に優れています。

3. オーステナイト系

強度、延性、靭性、耐熱性などに優れ、磁石に付きません。リサイクル率は高いですが、応力腐食割れに注意が必要です。

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