PVDコーティング

PVDコーティングとは

PVD (英: Physical Vapor Deposition) コーティングとは、被成膜物の表面に硬い合金よりなる薄膜を物理的な方法で成膜してコーティングすることです。

これにより、被成膜物表面を非常に硬く丈夫なものとします。また、表面の円滑性を高めて、被成膜物表面の摩擦や摩耗を低減する効果もあります。

PVDコーティングの使用用途

PVDコーティングの代表的な使用用途として、半導体製造工程が挙げられます。古くから使用されており、具体的には多層電極や配線、保護膜、絶縁膜、メタル膜の形成などです。

また、密着性の良さやコスト性能からCDやDVDなどの記憶媒体へのアルミコーティング、刃物工具の耐久性を向上させるチタン合金コーティングにも適しています。さらには、金属や非金属製品へメッキの代替えとして、例えばブレスレットや腕時計などの宝飾品やドアノブなどの建築部品の加飾用途にも活用されています。

樹脂成型金型やプレス金型などの成形性を上げるための表面処理、医療器具の表面処理や光学用反射防止膜なども使用用途の一つです。PVDコーティングは、被成膜物の「高耐久化」や「低摩耗化」および「高寿命化」を達成するものなので、様々な分野に使用されています。

PVDコーティングの原理

PVDコーティングは、被成膜物表面に物理的な方法で硬い金属を付着させ膜を形成してコーティングすることです。金属を付着させる手段としては、「真空蒸着法」「スパッタリング」「イオンプレーティング」の3種類があります。

これらの方法のいずれにおいても、成膜容器内を高真空域 (高真空10⁻¹~10⁻⁵) とし、その中で、成膜する材料物質 (ターゲット) を熱や電子ビーム、イオン等の外部エネルギーによって気化あるいは蒸発させ、被成膜物上に物理的に堆積させます。

PVDコーティングの種類

PVDコーティングにおける金属を付着させる方法として、「真空蒸着法」「スパッタリング」「イオンプレーティング」の3種類が挙げられます。

1. 真空蒸着法

真空蒸着法は、最も基本的なPVD成膜法です。高真空域へ到達した成膜容器内で、成膜材料を気化、蒸発させて被成膜物表面へ物理的に堆積させます。成膜物質を加熱する方法としては、電子ビーム加熱方式と抵抗加熱方式が代表的です。

電子ビーム方式
電子ビーム方式は、汎用性が高く最も利用されている方法です。この方法では、水冷されたルツボに膜を形成する蒸発物質を入れ、電子ビームを照射して蒸発させています。

抵抗加熱方式
抵抗加熱方式は、高融点金属製のボート上に膜を形成する蒸発物質をのせ、ボートをヒータで直接加熱する方式です。このほか、高周波誘導加熱やレーザビーム加熱高周波加熱およびアーク加熱などもあります。

真空蒸着法
真空蒸着法では、被成膜物を加熱する必要が無いため、樹脂や熱履歴を残したくない金属製品への成膜が可能です。また、真空蒸着法では被成膜物に負電圧を印加する必要もないことから、導電性の無い素材への成膜もできます。

2. スパッタリング

スパッタリングにおいては、高真空域へ到達した成膜容器内で、アルゴンなどの活性ガスをイオン化して成膜材料にぶつけ、その分子および原子を勢いよく飛ばします。飛び散った分子および原子は被成膜物表面に物理的に堆積され、膜が形成されます。

アルゴンガスをイオン化する方法としては、成膜容器内に陰極に成膜材料、陽極に被成膜物を配した平行平板電極を配置し、直流電圧を印加して陰極側でグロー放電を生じさせ、放電領域内でアルゴンガスをイオン化させる方法が基本です。

このとき、イオン化したアルゴンは高エネルギー、高速状態で陰極側へ衝突します。その際に陰、極側へ設置された成膜材料に衝突するため、そこから放出された材料原子が陽極側に取り付けられた被成膜物に到達して物理的に堆積していきます。

この方法は2極スパッタリングと呼ばれ、現在ではアルゴンのイオン化率を高める為に磁力線効果を併用 (陰電極にマグネットを設置) したマグネトロンスパッタリングが主流です。

3. イオンプレーティング

イオンプレーティングは、真空中で加熱して蒸発させた金属や化合物のガスをイオン化し、被成膜物に叩きつけて膜を堆積する方法です。つまり、真空蒸着にプラズマを加えた処理法と言えます。

具体的には、高真空領域に達した成膜容器内において、直流電圧や高周波電圧、電子ビーム等でターゲットを蒸発させます。これと同時に成膜容器内に反応ガス (窒素、炭化水素等) を導入し、これと蒸発した成膜物質を反応させます。

被成膜物には陰電圧が印加されているため、成膜材料は加速されて高エネルギー状態で被成膜物に衝突し、被成膜物表面に堆積して膜形成が可能です。この方法は、窒化物や炭窒化物を密着性良く成膜可能で、刃物工具や耐久性を要する加飾などに用いられます。

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