キニジンとは
キニジン (英: Quinidine) とは、白色の結晶性粉末のアルカロイドの1種です。
IUPAC名は(S) – [ (2R,4S,5R) -5-ethenyl-1-azabicyclo [2.2.2] octan-2-yl] – (6-methoxyquinolin-4-yl) methanol で、別名として (+) -キニジン (英: (+) -Quinidine) やコンキニン (英: Conquinine) 、Pitayineとも呼ばれます。
化学式はC20H24N2O2で表され、分子量は324.42です。CAS登録番号は56-54-2です。
キニジンの使用用途
キニジンは、キナ属の樹皮から抽出されるアルカロイドです。
1. 医薬品分野
強力な抗不整脈作用を有しているため、古くから医薬品分野において心房および心室性不整脈の治療薬として使用されてきました。心筋では、細胞膜全体のナトリウムとカリウムの流れを抑制することで、興奮性を減衰させます。この興奮の減衰効果により、心筋の不規則な収縮を抑制する効果が得られます。
2. 抗マラリア作用
寄生虫の酸性食液胞内でヘムポリマー (ヘマゾイン) と結合し、ヘムポリマーゼ酵素による重合を阻害することにより、主に赤血球内分裂薬として作用して抗マラリア活性を発揮します。しかし、単一投与は第一選択薬としては用いられず、ドキシサイクリンと併用、または他の薬剤が使用されます。
3. 禁忌
刺激伝導障害や重篤なうっ血性心不全、高カリウム血症の症状を持つ患者には禁忌のため、使用できません。他にも併用禁止薬が多数報告されています。
4. 化試薬
シャープレス不斉ジヒドロキシ化試薬のAD-mix-βには、キニジン誘導体がリガンドとして使用されています。
キニジンの性質
キニジンの融点は174°Cで、常温で固体です。メタノールに非常に溶けやすく、アルコールやエーテル、クロロホルムに溶け、石油エーテルには不溶です。
酸の強さを定量的に表すための指標の1つである酸解離定数 (pKa) は8.56となっています。なお、pKa が小さいほど強い酸であることを示します。
キニジンのその他情報
1. キニジンの製造法
現在、販売されているキニジンの多くは、キニーネの異性化により製造されています。天然からは、シナ属の抽出物よりキニーネを除去後、残った母液から得られます。水中やアルコール中で、再結晶による精製が可能です。
2. 法規情報
危険物船舶運送及び貯蔵規則にて、毒物類・毒物 (危規則第3条危険物告示別表第1) に指定されています。また、航空法にて、毒物類・毒物 (施行規則第194条危険物告示別表第1) に指定されています。
3. 取り扱い及び保管上の注意
取り扱う場合
強酸化剤との接触を避けます。局所排気装置であるドラフトチャンバー内で使用し、個人用保護具を着用します。
火災の場合
キニジンは不燃性で、それ自体が燃えることはありません。ただし、熱分解で窒素酸化物のガスを発生するおそれがあります。消火には水噴霧や泡消火剤、粉末消火剤、炭酸ガス、乾燥砂などを使用します。
皮膚に付着した場合
皮膚に付着しないよう注意が必要です。使用時は、必ず白衣や作業着などの保護衣や保護手袋を着用します。保護衣の袖は決して捲らず、皮膚が暴露しないようにします。
万が一皮膚に付着した場合は、石けんと大量の水で洗い流すことが重要です。衣類に付着した場合は、汚染された衣類をすべて脱いで隔離します。症状が続く場合は、医師の診療が必要です。
眼に入った場合
使用時は、必ず保護メガネまたはゴーグルを着用します。万が一眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗います。コンタクトを着用している場合で簡単に外せるときは外し、しっかり洗浄します。ただちに、医師の診察が必要です。
保管する場合
保管する際は、遮光性のガラス製容器に入れて密閉します。直射日光を避け、換気がよく、なるべく涼しい場所は望ましいです。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0117-0011JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Quinidin