塩水噴霧試験とは
塩水噴霧試験とは、金属材料またはめっき皮膜・塗装皮膜を施した部品などを、塩分を多く含んだ雰囲気中に放置し加速腐食させることによって、製品の耐食性を評価する試験です。
自然環境下で年単位の長期間にわたって維持されるべき機能を、時間単位で評価します。沿岸部の地域では、潮風にのって飛んでくる海塩粒子によって、また雪が降る地域では、道路の凍結を防ぐために撒かれる塩化カルシウムによって、錆が発生しやすくなります。このような条件下でも、製品が錆によって使用できなくなることがないよう、耐食性を確認するために行われるのが塩水噴霧試験です。
この塩水噴霧試験は、JISと呼ばれる日本産業規格や、ISOや海外各国の規格、自動車製造会社の規格などによって、その試験法や試験装置、判定の基準などが定められています。また、塩水噴霧試験は、SST (Salt Spray Test) と呼ばれることもあります。
塩水噴霧試験の使用用途
塩水噴霧試験は、自然環境下での金属材料の腐食に対する耐久性を評価するために行われます。屋外で長期にわたって使用される金属製品において、錆の発生に関する品質を確認することが目的です。
具体的には、自動車や建築資材、またはこれら部品に施されるめっきや塗装を耐食性評価する際に採用されています。自動車部品の場合、特にメンテナンスで緩めたり締め付けたりする部分に使われているねじや鋼板でできたオイルパンなどは、高い耐食性が必要です。製品だけでなく、めっきや塗料の腐食に対する耐久性評価にも、塩水噴霧試験が行われます。
塩水噴霧試験の原理
塩水噴霧試験は、専用の塩水噴霧試験機を用います。塩水噴霧試験装置は、一定の温度を保ちながら、塩分を含んだ溶液を決められた量で噴霧し続け、試験室内を腐食が進行しやすい環境に保ち続けます。
この試験室内に試験片や試験対象の部品などを放置して、腐食が進行していく様子を観察します。試験開始から、あらかじめ決めておいた時間で試験対象を取り出し、腐食によって減量した質量を測定したり、目視での物理的破壊の確認をしたりすることで、試験対象物の耐食性を確認します。
塩水噴霧試験は、ISOやJISといった工業規格などに基づいて実施されます。代表的な試験規格は、以下の通りです。
- ISO 9227:2017 Corrosion tests in artificial atmospheres – Salt spray tests
- JIS Z 2371:2015 塩水噴霧試験方法
- JIS H 8502:1999 めっきの耐食性試験方法
- JIS K 5600-7:2014 塗料一般試験方法-第7部:塗膜の長期耐久性
塩水噴霧試験のその他情報
1. 塩水噴霧試験の相当時間
塩水噴霧試験は、めっきや塗装、工業製品などが製品として使われる日常環境において、錆の発生を抑えるための品質を確認する際に行われます。年単位で求められる耐食性を、時間単位で評価するための加速試験の一つです。しかし、各種工業規格では、自然環境と試験環境との相関については規定していません。
塩水噴霧試験の試験時間が、自然環境のどのくらいの経過時間に相当するのかという相関については、各製品の製造メーカーが、独自に基準を定めて運用しています。試験の方法や条件は各種工業規格に則り、規定された条件下での評価時間は、それぞれの会社や業界が定めています。
2. 塩水噴霧試験以外の試験
塩水噴霧試験装置では、製品使用時の「塩分を含む環境」や「塩水を含む環境における温湿度変化」についても、再現が可能です。これによって、実使用で起こりうる腐食について確認したり、部品故障時の再現したりする際に役立ちます。
また、塩水噴霧試験と似た試験も、いくつか存在します。具体的には、塩水噴霧試験とサイクル試験を組み合わせた塩水複合サイクル試験や、塩水の代わりに塩水に塩化銅を添加した溶液を噴霧するキャス試験などです。確認したい事象や試験対象の素材に応じて、いくつか組み合わせて試験する方法もあります。