水晶発振器

水晶発振器とは

水晶発振器

水晶発振器は、水晶の持つ圧電現象を利用した水晶振動子 (クォーツ) による機械的共振に発振回路を内蔵し、一定の周波数を生み出すデバイスのことです。

水晶以外の発振回路には、LC発振、CR発振、セラミック素子を使った発振などがあります。水晶発振の場合はppmオーダ (100万個に1個の不良も許さない厳しい品質管理が可能) の高い精度が得られますが、そのほかは%の精度が許容できる回路に限られる点で水晶発振は優れています。

水晶が電子回路素子として使用できる理由は、水晶に圧電効果があるためです。トランジスタやICの発明よりもはるか昔の19世紀から、水晶は素子として使われていたという歴史があります。

水晶発振器の使用用途

水晶の振動をもとにした水晶発振器は、通信機器などの周波数信号源、時計 (クオーツ) のタイミング源、テレビのカラーバースト信号源として使われてきました。近年では、デジタル回路の固定周波数のクロック源として膨大な数が使われています。

ICやLSI (ICに比べてより集積度の高い複雑な回路をおさめた集積回路) にはクロック基準信号が不可欠であり、水晶発振器はクロック生成に必要な高い周波数安定性と無調整化、小型化を実現しています。

そのため、従来の通信機器やテレビ、時計などにとどまらず、衛星通信や自動車、パソコン、DVD機器などの情報家電分野にまで水晶発振器の使用用途は幅広いです。

水晶発振器の原理

水晶発振器は、水晶振動子(クォーツ)と呼ばれる共振子を基準共振に用いて、発振回路により、基準周波数となる信号を生成するデバイスです。水晶振動子では水晶の持つ圧電現象を利用しますが、水晶振動子だけでは共振周波数の必要な振幅を維持し続けることはできません。

そこで水晶発振器においては、内部に発振させる回路を追加で付加し、共振子の共振周波数を活用して、基準周波数信号の強度と周波数を制御しています。これが水晶発振器の動作原理です。水晶は、石英 (Sio2:二酸化ケイ素) から成り立っていますが、水晶発振器に使うのは人口水晶です。その人口水晶はラスカという天然の水晶が原料としています。

アルカリ溶液を満たした炉 (オートクレーブ) の中にラスカを入れ、高温かつ高圧にかけて溶かし、温度を制御することによって自然対流を発生させ、高い純度で再結晶した大きな人工結晶をつくります。それを薄く切り出し、水晶発振器にします。

水晶発振器のその他情報

1. 水晶振動子の振動モード

結晶軸に対して切り出す角度によって、周波数の温度特性、振動モードなどが変わります。MHz帯の水晶が最も多く、なかでも「ATカット」と呼ばれるものは、広い温度範囲であり、かつ偏差が小さいのが特性です。

たとえば、腕時計などに使われる場合には、体温や室温に近い温度で、温度係数が0になるような角度で切り出すといった具合に、使用目的によって切り出し方も変わります。

振動モードは、水晶が持っている機械的な振動の形態を言います。ATカット「厚み滑り振動」とも言い、イメージとしてはまな板の上に豆腐を置いて揺らしたような振動です。このように、発振周波数は、切り出し方の厚みがどの程度かによって決定されます。

2. 水晶発振器の精度

通常の水晶発振器の精度は1/10,000~1/100,000程度の誤差です。この精度を他の発振器と比較すると、シリコン発振器の約1,000倍、セラミック発振器の約100倍であり、シリコン発振器やセラミック発振器より高い精度を有しますが、原子時計に使われるセシウム発振器には精度面で及びません。

水晶発振器にはより精度を高めた製品もあり、温度保証水晶発振器 (TCXO) というタイプの製品です。このタイプの製品には温度保証回路と呼ばれる回路が組み込まれています。温度保証回路は水晶振動子の持つ温度特性を打ち消すような回路で、この回路を内蔵することにより、より広い温度範囲で安定した性能を発揮できるようになります。

3. 水晶発振器式時計の仕組み

水晶発振器式時計、すなわちクオーツ式時計は、水晶発振器が作り出す高精度な振動からICが分周を行い1秒間隔の周波数へ変換し時計として機能します。アナログ式 (針のあるタイプ) の時計は、この1秒間隔の周波数でステップモータを駆動して、秒針、分針、そして時針を動かします。一方、デジタル時計は同様に水晶発振器から作り出された1秒間隔の周波数で液晶パネルを駆動し、数字を表示していきます。

クオーツ式時計の機械式時計と比較した場合のメリットは、時間の精度が優れているだけではありません。電池で駆動できることから、長い時間メンテナンス無しで動き続ける点が挙げられます。また、たとえ電池が切れてしまっても、電池を交換すれば以前と同様の精度で動き続けることが可能です。

電池交換を不要としたクオーツ式時計として、太陽電池の搭載や発電機を搭載した腕時計等も発売されており、これらの時計はより長い期間に渡って時計を動かし続けられます。

4. MEMS発振器との比較

水晶発振器の歴史は1950年代に日本の時計メーカーがクオーツ式時計を生み出した後に急速に広がりを見せ、現在は、通信機器やテレビ、情報家電の分野で幅広く用いられています。しかし、昨今、小型化、価格面、性能面でMEMS (微小電子機械システム) 発振器と呼ばれる発振器が着目されています。

MEMS発振器は、半導体の製造過程を応用した製造工法を用いるため、電子回路への組み込みがしやすく、小型化向きです。特性面でも周波数調整のしやすさや消費電力の面で有利な商品も出回っており、今後改良により水晶発振器の市場シェアを凌駕する可能性もあります。

5. 高周波数化への取り組み

昨今の情報通信用デバイスは、その情報通信量の拡大に伴い、通信用の変調帯域を広く確保し、扱うクロック周波数を速くしたいというニーズから、通信の世代とともに扱う周波数が高くなってきています。よって基準周波数生成用の水晶発振器も当然ながら高周波数対応への要求があります。

PLLなどのアナログ回路技術の進展で、ある程度は周波数を回路面から上げることは可能です。しかし、その場合は位相ノイズや温度特性などの課題が発生するため、基準となる水晶発振器の発振周波数を上げるべく、現在は水晶振動子自体の改良と発振回路の高周波数対応で、100MHzの高周波数対応の製品もリリースされています。

参考文献
https://jp.rs-online.com/web/generalDisplay.html?id=ideas-and-advice/crystal-oscillators-guide
https://toragi.cqpub.co.jp/Portals/0/backnumber/2010/12/p147.pdf
https://www.jcwa.or.jp/time/tech/tech09.html

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