撥水撥油コーティング剤とは
撥水撥油コーティング剤は、撥水撥油性能が必要とされる被保護物の表面に塗布することにより被膜を形成し、被保護物に撥水撥油性能を付与するものです。フッ素樹脂を溶解した溶液状の製品がほとんどで、刷毛や浸漬などで簡単にコーティングでき、室温で乾燥できることも特徴です。
撥水撥油コーティング剤の使用用途
撥水撥油コーティング剤は、日用生活品から工業用品、材料の防水加工まで撥水性能や撥油性能を必要とする他分野にわたって使用されています。
日用生活品への使用例としては、タッチパネルの撥水・撥油・指紋付着防止への使用や防水スプレー原液としての使用、絹や綿などの繊維に対する撥水防水などが一般的な使用例です。
工業用品への使用例としては、ミニ・モーターの軸受け油流出防止やHDD流体軸受け(FDB
)のオイルバリヤ、HDD磁気ヘッドへの潤滑油移行防止などがあげられます。
また、材料の防水加工例としては、絹や綿などの繊維の撥水・防水加工や木材の撥水、皮革防水などです。
撥水撥油コーティング剤の原理
撥水撥油コーティング剤の主成分であるフッ素においては、C-F結合が安定しており、分子と分子が引き合う力(分子間凝集エネルギー)が弱く、撥油撥水コーティング剤の表面張力は低くなります。一方の水や油は分子同士が引き合い、その表面張力は撥油撥水コーティング剤の表面張力よりも高い値です。このことから、表面張力の低い撥水撥油コーティング剤よりなる膜の上では、表面張力が高い水や油は液滴となり、水と油がはじかれます。また、微生物をはじめとする生物も、フッ素よりなる撥水撥油コーティング剤よりなる膜の表面に付着しにくくなります。
なお、このはじく性質は、ぬれ性を示す接触角であらわされます。接触角とは、液体を固体表面に落としたときにできる液滴のふくらみ(液の高さ)の程度を数値化したものです。具体的には、固体表面に付着した液を横から観察して測定し、固体表面を基準として液滴の端点における液の角度を測定します。
超撥水とは
撥水の中でも、超撥水とは、表面撥水性が非常に高い状態を示す言葉です。撥水と超撥水の違いは、固体表面に液体が触れた時の接触角の差であらわされ、接触角が140度以上だと超撥水、90度以上だと撥水と呼ばれています。
撥水撥油コーティング剤の種類
撥水撥油コーティング剤には様々な種類があります。
- 不燃性溶剤タイプ
引火性が無く安全に使用できるタイプです。
- 水性タイプ
水またはアルコールで希釈して使用できるタイプです。キュアリング不要です。
- 石油系溶剤タイプ
コストパフォーマンスに優れます。
また、近年では、炭素数が8個以上のC8テロマー(Rf基の構造を有する化合物)を使用しない、もしくはフッ素自体を使用しない撥水撥油コーティング剤もあります。
これは、炭素数が8個以上のC8テロマー(Rf基の構造を有する化合物)を原料としているフッ素系加工剤に、PFOA(パーフルオロオクタン酸)が不純物としてごくわずかに含まれるためです。このPFOAは、環境や人体に影響を及ぼす可能性があるといわれています。このため、炭素数が6個のC6タイプの撥水撥油コーティング剤や、フッ素を使わない非フッ素系撥水撥油コーティング剤が開発されています。
撥水撥油コーティング剤の導入例
撥水撥油コーティング剤の導入例の一例としてインクに関わる分野があげられます。
撥水撥油コーティング剤は、例えばインクジェットプリンターのインクカートリッジに使用されています。インクジェットプリンターにおける印刷の基本的な動作は、インクカートリッジ内のインクの必要な量をインク噴出ノズルから噴射して被印刷物に吹き付けることです。このとき、色合いは複数の色のインクの吹き付け量を調整しておこないます。
このため、インクジェットプリンターにおいては、ノズルのつまりはインク噴出量が変化し、色や濃さが変わってしまうため大きな課題です。そこで、インク噴出ノズルの内壁に撥水撥油コーティング剤を塗布して、インク噴出ノズル内のインクの付着を防止しています。
また、インクカートリッジを効率よく使用する、インク噴出ノズルから噴出する量を確実に提供するためには、インクカートリッジ内のインクの付着をなるべく減らすことが必要です。そこで、インクカートリッジの内壁に撥水撥油コーティング剤を塗布して、インクカートリッジ内へのインクの付着を防止しています。
インクカートリッジはプラスチック製のものが多く、加熱などの処理が不要な撥水撥油コーティング剤は好適です。