監修:株式会社天吉
ヘラ絞り加工とは
ヘラ絞り加工とは、素材となる金属板を回転させながらへらと呼ばれる棒を押し当てて変形させる加工手法で、塑性加工の一つです。
金属を回転させながら加工することに由来して別名ではスピニング加工と呼ばれたり、ヘラ押しと呼ばれることもあります。アルミニウム・鉄・ステンレス・銅・真鍮など幅広い金属素材で加工が可能です。金型が安価で済む、なめらかで均一な加工が可能、対応範囲が広い (深絞りや大型製品など) などのメリットがあります。また、他の加工方法と組み合わせて、複雑な造形を製作することも可能です。
ヘラ絞り加工の使用用途
ヘラ絞り加工は、金属製のシェル状製品の製造一般に広く使用されている加工法です。ヘラ絞り加工によって製造される製品の一部には下記のようなものが有ります。
- 家庭用容器 (洗面器、洗い桶などの各種家庭用金物)
- 調理器具 (ケトル、フライパン、ボールなど)
- 照明器具 (店舗用照明、スポットライト、ダウンライトや、新幹線ライトなど)
- 装飾工芸品
- 車・バイク部品 (エンジン部品、タイヤホイールなど)
- 通信機器 (パラボラアンテナなど)
- ボイラ、タンク、ノズル
- 産業用部品
- 研究用部品
- 楽器 (シンバル)
- 医療機器 (レントゲン、消毒機、医療品調合器、検査用皿)
また、ヘラ絞り加工は、高度なものづくりの技能としても注目されており、例えばH2ロケットの先端カバーもこの加工法によって製作されました。
ヘラ絞り加工の原理
1. 概要
ヘラ絞り加工は、マンドレルと呼ばれる回転する成形型に、板状や管状の金属素材 (ブランク・ワーク)を、ヘラで押し付けて成形を行う加工方法です。加工の際は、熟練工によって、手作業でヘラに加える力を加減しながら加工されます。回転中心から外側へ向かって、型に沿って少しずつ変形させます。
2. ヘラ絞り加工と職人の技能
ヘラ絞り加工は、ヘラから手に伝わる感触で素材の変形状態を確認しながら微妙な力加減の下で作業する加工法です。職人の技術や経験、感覚などに左右される加工法であるとも言えます。大型製品の加工においては、5-6名の熟練工が一緒にヘラを操作することもあります。
3. ヘラと加工素材の材質
ヘラ絞り加工で一般に使用されるヘラの材質は工具鋼です。先端部には焼入れが施され、素材とへらとの接点はグリース等で潤滑させます。形状によっては表裏から2つのヘラを当てることもあります。
加工する金属材の板厚が大きい場合や、難加工素材 (モリブデンやチタンなど) を加工する場合には板を加熱しながら加工する場合もあります。 大きく変形させる加工を行うためには複数回にわたって少しずつ変形させる必要があり、必要な場合は焼きなましが施されます。
4. ヘラ絞り加工の特性
ヘラ絞り加工には、下記のような特色があります。
- プレス加工と比べ、金型コストが安く、製作期間の短縮化が可能
局部変形の繰り返しのため、他の加工法よりも加工力が小さく、設備がコンパクト
プレス加工は金属をプレスするための上下の金型が必要です (オス型とメス型) 。設計から金型製作、金型組み立て、プレス加工まで、短くても10日程度の納期を要します。一方、ヘラ絞りの場合、オス型の金型のみで金属加工ができるため、金型コストも低く、短納期での製作が可能です。
ヘラ絞り加工の種類
前述の通り、ヘラ絞りは数mm単位の極めて小さい製品から、数m規模の大きい製品の製造まで幅広く使用されている加工手法です。そのため、ヘラ絞り用の装置は小型のものから大型のものまで幅広くあります。
また、ヘラ絞り加工の応用事例には、下記のようなものがあります。
- ネッキング: 円筒、円錐筒および各種のパイプ状の金属を部分的に細くする加工
- バルジング: 肉厚パイプ等の押し延しやスエージングを行う加工
- カーリング: 成形製品の縁を巻き込む加工
- ビーディング: 成形された製品の外周及び底部に絞目を入れる加工
本記事はヘラ絞り加工を提供する株式会社天吉様に監修を頂きました。
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