熱伝導樹脂

熱伝導樹脂とは

熱伝導樹脂とは、熱伝導率 (固体中における熱の伝わりやすさ) が高い樹脂です。

近年、電子機器の高性能化・高集積化・小型化が急激に進んでいます。これに伴って電子機器からの放熱量が増加しており、電子機器の放熱性能が課題となっています。

このような電子機器に熱伝導樹脂を使用することで、放熱性能を高めることが可能です。現在、ポリカーボネート樹脂ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ナイロン樹脂などが熱伝導樹脂として製品化されています。

熱伝導樹脂の使用用途

熱伝導樹脂は、高い放熱性能が要求される分野での利用が進んでいます。例として、各種電子機器をはじめ、OA機器やIT機器、LED部品やセンサー部品などでの使用が挙げられます。

電気自動車を制御するためのパワー半導体も用途の1つです。パワー半導体は熱損失が大きいため発熱量が多く、使用時には効率的に熱を放出することが求められるからです。パワー半導体を熱伝導樹脂でパッケージすることで、半導体チップからの放熱性を高められます。

熱伝導樹脂の原理

熱伝導樹脂は、既存の樹脂に熱伝導性フィラー (黒鉛など) を配合することで製造します。熱伝導性フィラーを配合すると、樹脂内部に熱伝導性フィラーからなる熱伝導パスが形成され、内部で発生した熱がこの熱伝導性パスを通って外部に放出されます。これが樹脂の放熱性能が向上する理由です。

しかし、樹脂内部で熱伝導性フィラー同士が接触しない場合、当然熱伝導性パスは形成されません。そのため、熱伝導性フィラーの配合方法によっては熱伝導性の付与に失敗する場合もあります。

また、熱伝導性フィラーを大量に添加すると樹脂の加工性が損なわれるので、さらに別の添加剤を追加して樹脂に流動性を付与するケースもあります。

熱伝導樹脂の種類

1. シリコン樹脂

シリコン樹脂は、シリコン原子と酸素原子が主成分で構成されるポリマーの1種です。耐熱性が非常に高く、通常耐熱温度は200℃以上に達しますが、一部の特殊なグレードでは300℃以上に耐えるものもあります。シリコン樹脂は非常に柔軟性があり、高い耐薬品性を持ちます。

また、優れた電気絶縁性と耐候性も特徴的です。これらの特性から、電子機器やLED照明のヒートシンク、電気部品の断熱材料、耐熱シールなどに広く使用されています。

2. ポリアミド樹脂 (ナイロン樹脂)

ポリアミド樹脂は、アミンとカルボン酸の反応によって生成されるポリマーの1種で、一般的にナイロンとして知られている樹脂です。ポリアミド樹脂は高い耐熱性を持ち、一部の特殊なグレードでは300℃以上の耐熱温度を持つものもあります。

耐薬品性にも優れ、高い機械的強度を有します。これらの特性から、自動車部品や産業機械の冷却フィン、電気・電子機器の冷却材料として使用されることが多いです。

3. ポリカーボネート樹脂

ポリカーボネート樹脂は耐熱性に優れ、透明性を持つポリマーです。高い耐熱性により、耐熱温度は100℃以上になります。

光学的な透明性が求められる用途に加えて、熱を発散する必要があるLED照明や電子機器のケース、ヒートシンクにも広く利用が可能です。また、耐衝撃性にも優れているため、頑丈な製品に適しています。

4. ポリエステル樹脂

ポリエステル樹脂は高い耐熱性を持ち、通常、耐熱温度は100℃以上ですが、一部の特殊なグレードでは150℃以上に耐えるものもあります。また、耐薬品性や耐摩耗性も優れた樹脂です。

電気・電子機器の冷却材料や電源部品、自動車部品、産業機械の断熱材料などに広く使用されます。

5. アクリル樹脂 (PMMA)

アクリル樹脂は透明性に優れ、一部のタイプは高い熱伝導率を持つ樹脂です。一般的な耐熱温度は80℃から100℃程度ですが、熱伝導性の高い特殊なグレードでは150℃以上に達するものもあります。

主にLED照明のレンズや光学素材として広く使用されていますが、一部の高熱伝導性のタイプは熱を発散させる用途にも利用されます。

熱伝導樹脂のその他情報

熱伝導樹脂のメリット

  • 使用箇所の局所的な温度上昇を防ぐことが可能
  • 金属やセラミックスと比較して低コスト化・軽量化が可能
  • 射出成形などの成型が容易であり、加工の自由度が高い
  • 周辺部品と一体化することで、部品数を減らすことが可能

参考文献
https://www.unitika.co.jp/plastics/products/nylon/heat-radiation/
http://www.aichi-inst.jp/other/up_docs/no161_04.pdf

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