ガスクロマトグラフ

ガスクロマトグラフとは

ガスクロマトグラフ

ガスクロマトグラフとは、気化しやすい化合物の定性・定量分析に用いられる装置です。

一般的にガスクロと略されて呼ばれることが多く、英語表記であるGas Chromatographの略号から、GCと表記されることもあります。高速液体クロマトグラフと並び、非常に有名な分析手法です。

その原理としては、試料を気化させた後、各成分ごとに分離し、化合物の種類と含有量を決定します。非常に低濃度の揮発性成分も分析できる点が最大のメリットです。現在は、製薬や食品、化学工業など幅広い分野で活躍し、科学技術の基礎と発展に貢献しています。

なお、ガスクロマトグラフとよく似た言葉としてガスクロマトグラフィーがあり、両表現は混同されがちですが、前者(ガスクロマトグラフ)は『実験装置』を意味し、後者(ガスクロマトグラフィー)は『ガスクロマトグラフを用いた分離操作』を意味するため、その意味が異なります。

ガスクロマトグラフの使用用途

ガスクロマトグラフは、医薬や食品、化学などの分野で、化合物の分離・分析目的に使用されます。例えば、有害物質濃度の測定や装置内で発生するガスの成分分析など使用用途は多岐にわたります。ただし、あらゆる化合物を分析できるわけではないので注意が必要です。ガスクロマトグラフィーはその原理上、一般的には沸点が400℃以上の不揮発性化合物や高温状態で分解する不安定な化合物は分析できません。また、無機金属やイオン類、吸着性の高い化合物なども同様の理由で分析困難なため、分析の前に確認する必要があります。

ガスクロマトグラフィーの原理

ガスクロマトグラフィーの原理は、非常にシンプルであり、以下の3ステップから構成されます。

  1. 試料を熱で気化させる。
  2. カラムクロマトグラフィーにより成分を分離する。
  3. 適切な方法で成分を検出する。

まず液体試料を熱気化させます。気化した成分はキャリアガスによりカラムへと運ばれます。気化した成分はカラム内の固定相(液相)に吸着・分配され、成分ごとに分離されてカラムを通過します。この時、カラム内を化合物が進む速度は化合物によって異なるため、移動速度の速いものから順にカラムの外へ出ていきます。分離された各成分は検出器によりピークとして記録されるため、この保持時間およびピーク面積を標準品のそれと比較する事で、試料の種類と濃度を決定できます。

本分析手法は、高速液体クロマトグラフィーでは分離・定性・定量できないような揮発性成分を分析できる点が大きな特徴です。

ガスクロマトフの模式図

図1. ガスクロマトフの模式図

ガスクロマトグラフィーに用いられる固定相について

ガスクロマトグラフィーのカラムに使う固定相の選定は非常に重要であり、成分特性に応じて適切な固定相のカラムを用いないと分離・分析が困難になります。

カラムは固定相の極性の高さから、無極性カラムと高極性カラムの2種類に大別されます。

無極性カラム

固定相として極性の低い化合物が用いられたカラムの事です。このようなカラムにおいては、極性の低い化合物は固定相である低極性の液相に強く保持されるため、移動速度が遅くなり、その結果として高い分離能が得られます。そのため、無極性の化合物の分析に適したカラムであるといえます。また、無極性カラムは、高極性カラムより耐熱性が高く、一般的には350℃程度まで使用可能です。

高極性カラム

固定相として極性の高い化合物が用いられたカラムの事です。このようなカラムにおいては、極性の高い化合物が強く保持されるため、その移動速度が遅くなり、結果として高い分離能が得られます。そのため、高極性の化合物を分析に適したカラムであるといえます。また、高極性カラムは耐熱性が低く、一般的には250℃程度が上限のため注意が必要です。

誘導体化による高極性有機低分子化合物の分離

極性の高い有機低分子化合物は揮発性に乏しいため、ガスクロマトグラフを用いた分離・分析は一般的には困難です。ただし、対象化合物の構造によっては、化学的手法により揮発性化合物へと誘導体化する事が可能であり、その場合はガスクロマトグラフィーでの分離も可能となります。そのため、高速液体クロマトグラフィーでは分離が困難な化合物の分離・分析にこのような誘導体化のテクニックは広く用いられています。そのような例としては、水酸基を多く持つ化合物である糖類、オリゴ糖類のTMS化と、それに続くGC分析が挙げられます。

ガスクロマトグラフの検出器

検出器は、ガスクロマトグラフのカラムで分離した成分を検出するものであり、目的によって使い分けられています。

水素炎イオン化検出器(Flame Ionization Detector;FID)

送り込まれる空気と水素により形成される水素炎で有機化合物を燃焼させ、イオン化された化合物を検出します。ほとんど全ての有機化合物を検出可能であり、その感度も極めて高いという特徴があります。

熱伝導度検出器(Thermal Conductivity Detector;TCD)

キャリアガスと対象成分との間で生じる熱伝導度の差に基づくフィラメントの温度変化を読み取ることで成分を検出します。非破壊的に無機成分、有機成分の両方を検出可能です。

炎光光度検出器(Flame Photometric Detector;FPD)

燃焼により元素から発生する固有の波長の光が光電子増倍管により増幅されその強さが電気信号に変換されることで各成分を検出します。硫黄化合物、リン化合物、有機スズ化合物が検出対象となります。

化学発光硫黄検出器(Sulfur Chemiluminescence Detector;SCD)

硫黄化合物から変換された化学種(主にSO)がオゾンにより励起され、その後基底状態に戻る際に生じる光を光電子増倍管によって測定することにより、硫黄成分の検出を行うものです。

窒素リン検出器(Nitrogen Phosphorus Detector;NPD)

有機窒素化合物の測定に適した検出器です。水素炎中にはルビジウム塩があり、これにリンや窒素を含む化合物が入るとイオン化しCN-やPO-が生成され、これらのイオンを検出します。

電子捕獲検出器(Electron Capture Detector;ECD)

有機ハロゲン化合物、有機金属化合物、ニトロ化合物のような新電子性の高い化合物の選択的検出に用いられます。コレクタに捕集されるイオン電流を一定にするための電圧値の変化を読み取ることで成分を検出します。

ガスクロマトグラフ質量分析計

ガスクロマトグラフ質量分析計は、ガスクロマトグラフと質量分析装置をインターフェースで介して結合した装置です。 まず、複数の成分を含む試料はまずガスクロマトグラフで単一成分に分離され、次に質量分析装置で個々の成分のMSスペクトルを測定することで成分の定性を行い、イオンのスペクトル強度から定量を行うものです。

ガスクロマトグラフ質量分析計は、各種油の組成分析や、有機溶剤の定性分析、各種材料から発生するガスや熱分解発生ガス種の定性・定量分析、大気中、水中などのVOC (揮発性有機化合物) 分析などに適しています。

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