雨水貯留槽とは
雨水貯留槽 (別名: 雨水タンク) は、雨水を一時的に貯めるための設備です。
雨水が下水道などを経由して河川に流れ込むことによる水害を防いだり、屋根に降った雨水を雨どいからタンクに貯めることで、植物の水やりや玄関の打ち水として有効活用することができます。
近年は、市街化の進展により地表がコンクリートやアスファルトで覆われています。その結果、雨水は、地中に浸透する土地の面積を失っており、短期的に雨量が集中すると浸水被害を引き起こします。
土地の開発が進む前は、降雨が地表に浸透したり、蒸発することで河川への雨水の流入が抑えられていました。しかし、森林の伐採やため池の減少に伴って都市型水害が深刻化しています。
市街地は、雨水が浸透しにくいため、屋根や道路などの表面流出量が増加します。あふれた雨水は、下水道などを経由して河川に流れ込み、水害の原因になります。また、地中への浸透量が減ることで、晴天が続くと河川の流量が減少したり、湧き水が枯れたりすることが増えてしまいます。
こうした理由から雨水貯留槽を利用して雨水を一時的に貯めることで表面流出量を調整することが必要になります。
雨水貯留槽の分類
一般に雨水貯留槽は、地上型と地下型に分類されます。
地上型雨水貯留槽
地上型は、地表面貯留と呼ばれており、比較的小型で集合住宅や駐車場、小学校などの教育機関、公園などにおいて使用されます。貯留可能容量は、貯留場所と近隣の安全を考慮したうえで目安が設定されています。例えば集合住宅では、貯留場所が棟間緑地で貯留限界水深が約0.3m、貯留可能容量が1,110立方メートル毎秒に設定されています。
地下型雨水貯留槽
地下型は、地下貯留と呼ばれており、一般に施設規模の大きさで設置し、公共事業などにおいて活用します。また、地下貯留方式は、地下空間貯留施設と地下空隙貯留施設に分類されます。
1. 地下空間貯留施設
地下空間貯留施設は、建物と一体の構造で地下に設置するか、公園などの公共用地の地下に設置します。施設の壁材には、コンクリートやプレキャストコンクリートが使用されます。雨水の流入方式としては、建物の周辺から集水し、貯留する方法と河川などから集水する方法があり、排水時にはポンプを使用するのが一般的です。
2. 地下空隙貯留施設
地下空隙貯留施設は、建物と一体の構造ではなく、建物周辺の駐車場やグラウンドなどの地下に設置します。そのため、地表部は、従来の機能を有したまま活用できます。施設には、砕石やプラスチック、樹脂、鋼などが使用されており、雨水を貯留する機能と雨水を地中に浸透する機能を併せて付加することが可能です。
雨水貯留槽の使用用途
雨水貯留槽は、私たちの生活で見える場所と見えない場所において活用されています。見える場所では、戸建て住宅の軒下に設置される雨水タンクなどが挙げられます。見えない場所では、公園や校庭、駐車場などの地下が挙げられます。
昨今、都市部では、都市集中型のゲリラ豪雨が頻発するようになりました。その対策として、プレキャスト式と呼ばれる大型の雨水貯留槽を都市の地下に整備する方法が試みられています。
しかし、都市部は、動的で制御が難しいことや財政上の問題も挙げられるため、開発と発展が難航しています。
よって、一般住宅に小型の雨水貯留槽や浸透設備を設けることで都市部の保水力を補い、都市部では、複数の貯水槽に雨水を分散し、河川への流出を抑制する活動も行われています。
雨水貯留槽の選び方
雨水貯留槽は、土地や建物、周辺の安全性によって、その形態が変化するため、設置環境にあわせて選定する必要があります。
例えば雨水貯留槽は、捨てれば産業廃棄物になる浄化槽を雨水貯留槽として再利用することができます。
この場合の雨水貯留槽は、プラスチック製の容器が一般的ですが、再利用しない場合には、プラスチック型のブロック材も候補になります。ブロック材は、空隙率や貯水量も高く設計されており、強度、耐震率も優れています。
その他の雨水貯留槽の情報
1. 雨水貯留槽の補助金制度について
雨水や再生水に関する助成制度は、タンクや浄化槽、浸透施設などの区分によって各市区町村が条件を設定しています。
例えば雨水貯留槽は、個人や事業利用に問わず、市区町村の補助金制度を利用することができます。補助金の交付には、おおむねタンク容量が100リットル以上必要となります。
また、雨水をトイレ洗浄水として利用する場合には、500リットル以上の大型タンクを設置する必要があります。
そのほかにも雨水貯留槽として、再利用した浄化槽を利用する場合には、市区町村が設定した補助金の条件を満たせば、給付対象となり、地域によっては、天水桶などの伝統的な防火水槽が認められる場合もあります。
2. 雨水貯留槽の設置義務について
雨水貯留槽には一般的に設置義務がありません。ただし、集中豪雨などの影響が著しい地域などにおいては、条例によって雨水の流出を抑制する施設の設置等が義務付けられます。
例としては「埼玉県の雨水流出抑制施設の設置等に関する条例」が挙げられます。この条例では、1ヘクタール以上の開発等を行う場合には、雨水の流出を抑制する施設等の設置を義務付けています。
3. 雨水貯留槽の設置基準について
雨水貯留槽の設置基準は、各市区町村により設置に関する指針などが公開されています。
一般的には、建築物を建設する場合は、雨水の流出を抑制する施設を設置することが望ましいとされています。
例えば東京都千代田区では、適用区域や対象施設、指導内容、計画書の提出などが必要になります。また、各関係機関と協議する必要もあるため、事前相談窓口などが設置されています。
4. 雨水貯留槽の今後の需要
雨水貯留槽は、地球温暖化の影響により、異常気象が頻発していることから、今後も需要が増加していくと考えられています。特に小規模から中規模までの雨水貯留槽は、低価格で設置も簡単なため、需要の増加が予想されます。
しかし、雨水貯留槽に付随する安価な周辺機器の開発が追い付いておらず、利便性の向上のためにも開発が求められています。その中でも特に需要が高い周辺機器として水位計が挙げられます。
これらの理由から福井工業大学が2019年に「小規模雨水貯留槽に適した水位計の開発」として、IoT技術を導入した水位計の開発に必要不可欠な水位センサーの評価をおこなっています。