ポリ塩化ビニリデン

ポリ塩化ビニリデンとはポリ塩化ビニリデン

図1. ポリ塩化ビニリデンの基本情報

ポリ塩化ビニリデン (polyvinylidene chloride、PVDC) とは、塩素を含むビニリデン基を重合させた非晶性の熱可塑性樹脂に属する合成樹脂です。

構造は-[CH2CCl2]n-で表されます。CAS番号は9002-85-1です。無色透明の合成樹脂で、フィルム状もしくは繊維状の製品として市場に供給されている物質です。

他のシート状の樹脂と比較して熱や酸、アルカリへの耐性に優れており、酸素透過度や透湿度も低いことから、食品包装用のラップ等に使用されています。市場製品には塩化ビニル (PVC) またはアクリロニトリルなどとの共重合体が使用されており、単体で使用されることはほとんどありません。

ポリ塩化ビニリデンの使用用途

ポリ塩化ビニリデンは開発当初は繊維としての利用が主でしたが、今日最も利用されている用途は家庭用の食品包装ラップです。また、酸素や湿度からのバリア性を高めるため、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の樹脂と重ね合わせて多層フィルムの一層としても多く用いられています。

繊維としては、今日では各種ネット、排水処理用担体膜、ろ過布や、更にはドールヘアなどにも使用されています。衣料用には向きませんが、繊維製品としても様々な用途で活用されている素材です。

一時は燃焼時に発生するダイオキシンが社会問題となったため、分別回収や他の成分への置き換えが試みられていました。しかし、今日では焼却炉の燃焼温度向上により、通常の可燃ごみとして取り扱うことが可能です。

ポリ塩化ビニリデンの原理

ポリ塩化ビニリデンの原理を合成方法と性質の観点から解説します。

1. ポリ塩化ビニリデンの合成方法

図2. ポリ塩化ビニリデンの合成 – 1

ポリ塩化ビニリデンの工業的製法は以下の通りです。

  1. エチレンと、塩化ナトリウムを電気分解して得られる塩素または塩化水素とを反応させて、1,2-ジクロロエタンを製造します。
  2. 1,2-ジクロロエタンから塩化ビニルを合成します。
  3. 塩化ビニルに塩素を反応させて1,1,2-トリクロロエタンを得た後、水酸化カルシウムまたは水酸化ナトリウムを反応させ、脱塩酸反応により塩化ビニリデンモノマーを合成します。
  4. 乳化剤や少量の添加剤 (塩化ビニルなど) などを加えながら重合し、ポリ塩化ビニリデンを得ることができます。

ポリ塩化ビニリデンの合成-1

図3. ポリ塩化ビニリデンの合成 – 2

2. ポリ塩化ビニリデンの性質

ポリ塩化ビニリデンは、125 °Cを越えると分解し、塩化水素が発生することが知られています。耐水性を持ち、化学薬品類に対する優れた耐薬品性を持つ物質です。ただし、高温においてはジメチルホルムアミドやジエチルホルムアミドに溶解します。

適度な弾性を持ち、防湿性とガスバリア性の両方を兼ね備えるという性質は、他のプラスチックフィルムにない特徴です。また、酸素透過度は、ポリ塩化ビニルやポリエチレンと比較しても、極めて低くなっています。

3. ポリ塩化ビニリデンの製品化工程

ポリ塩化ビニリデンを主用途であるフィルムとして製品化する場合には、一度加熱溶融して冷却、延伸することによって成型を行っています。この時に素材をより柔らかくするため、アセチルクエン酸トリブチル等の可塑剤が添加されます。可塑剤は製品に残留し一定量が溶出しますが、人体には無害です。

ポリ塩化ビニリデンの耐熱性、強度を強化する場合、製造工程においてナイロンポリプロピレンにポリ塩化ビニリデンを挟み込み、多層フィルムとする場合があります。これはフィルム製品のみならず、ラテックスや漁網等の製造の際にもにも利用されている手法です。

ポリ塩化ビニリデンの種類

現在の主なポリ塩化ビニリデン製品には、フィルムや合成繊維などがあります。フィルム状の製品は、家庭用のラップや、業務用食品包装材料などが中心です。合成繊維は、防塵用フィルター、ろ過布、漁業用の網、釣り糸やブラインドなどの製品に加工して提供されています。

工業用途などを想定した化学材料としても販売されており、粉末・フィルムなどの種類があります。フィルム製品は、厚さ0.0125mm , 0.033mm , 0.043mmなどの種類があり、コイルもしくは正方形などの形状です。

また、産業用では織物・紙などにコーティングする水系高バリア性樹脂ディスパージョンとしても供給されています。

参考文献
https://vdkyo.jp/index.html
https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/factsheets_wrapfilm_140331.pdf

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