「機械学習×音響」立命館大学教授兼ソニックアークCTO西浦教授が語る「音響工学の最前線」

インタビューイー
西浦敬信
立命館大学情報理工学部教授
株式会社ソニックアーク取締役副社長CTO

専門: 音響工学

今回は、立命館大学情報理工学部 西浦教授にインタビューをお受け頂きました。

西浦教授は音響工学を専門として約40名が所属する音情報処理研究室を率いながら、株式会社ソニックアーク取締役副社長CTOとして、研究室の技術を社会に実装する取り組みも行っています。 そんな西浦教授に最新の音響工学についてお話をお伺いしました。

音響に機械学習を当てはめて情報ベースでアプローチをする

永津: 今回はお忙しい中、お時間を頂き誠にありがとうございます。早速ですが、西浦教授の研究についてお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?

西浦教授: 音という分野を、情報学をベースにやっています。音響分野だと、わりと電気系、もしくは機械系ベースでやることが多いのですが、私は情報学が専門。特に情報系を専門にしておかげで、今流行りの機械学習なんかも取り入れています。
例えばマイクで録った音をきれにしようと思ったら、機械学習できれいにできます。今はなんでも機械学習。スピーカから出す音もマイクで録る音も、すべて機械学習で補正がかかる時代になりましたので、音の新時代がやってきた感じです。

永津: なるほど。ありがとうございます。今回は私の興味というところで大変恐縮なのですが、「パラメトリックスピーカー」 「光レーザーマクロフォン」「快音化・ANC」についてお聞かせ頂ければと思います。

車のシートは、座席ごとに全部音空間を変えられる「パラメトリックスピーカー」

画像引用元: 株式会社ソニックアーク

永津: まずパラメトリックスピーカーについて教えて頂いてもよろしいでしょうか?

西浦教授: パラメトリックスピーカーというのは、超音波を使います。超音波に聞こえる声を乗せることで、超音波の直進性を使ってまっすぐ音を届けることができます。やっていることは、ラジオと一緒なのです。ラジオは電波に声を乗せて、遠くまで運びます。ただ、唯一違うのは、ラジオの場合は、受信機で電波をキャッチして音に変える仕組みですが、パラメトリックスピーカーは、空気の重さにより超音波が徐々に変形し、空気のうなりとして徐々に聞こえる音に変わるというところが面白いところです。よって、パラメトリックスピーカーの直近よりもちょっと離れた所のほうがしっかり聞こえます。

永津: なるほど。それは、波の位相とか、ポイントとかをずらしていくというのも、可能なのですか。それとも、明確に決まっていてそこからずらせないのでしょうか?

西浦教授: 狙った場所で音を再生できますので、もちろんずらすこともできます。さらに再生する音の幅と距離も制御できます。どこまで聞こえて、どこから聞こえないとか。

永津: ピンポイントで音を制御できるというのがすごいですよね。西浦教授の会社ホームページ(*株式会社ソニックアーク)を拝見するまで、僕は今まで知らなくて、「そんなこと、できるのだ」と驚きました。その応用例として、お化け屋敷の例が会社のホームページに出ていたのですけど、大変面白いなと思ったのですが、その他にあれば、是非ご紹介頂けますでしょうか?

西浦教授: 当然ピンポイントで音が聞こえるということは、例えば車のシートは、座席ごとに全部音空間を変えられるということです。

永津: なるほど。それぞれ、車で違う音を聞く。めちゃめちゃ良いですね。

西浦教授: ドライバーは、ナビのガイダンスで、隣のお母さんはテレビを見ていて、後部座席のお子さんは静かに寝ているみたいな。今は、ヘッドフォンなどで音を閉じ込めていますが、これも将来的には、なくなるかもしれません。我々は、飛行機の座席の音空間も一部扱っていますが、飛行機の座席に超音波スピーカーがあれば、その座席だけで映画の音楽などを、すべて閉じ込めることができるのです。

永津: ホテルの目覚まし時計なども、めちゃくちゃ良いなと思っておりまして。すごいなと思います。応用例に関しても、「こういうところがあるのか」という、素人からしたら、大変感銘を受けるのですけど、こういう所で使えるのではないかというアイディアも、全部西浦さんが考えられているのですか。

西浦教授: 私ももちろんアイディア出しはしますが、イベント等で技術を社会に発信することによって、来場者から「こんなのに使えるんじゃない」とか「あんなのどう」みたいなコメントを多数頂きます。1回テレビで発信してもらうと、お便りみたいなものが、たくさん大学に届きます。すべてに返事は書けていませんが、読ませていただいています。大学での技術デモンストレーションも多いときは月10件くらい実施しています。高校生向けとか企業向けとか、いろいろ趣向を凝らして内容を調整しています。そういうときに、生の声も頂けると、新しい発見につながっていきます。

永津: なるほど。めちゃめちゃ素敵ですね、そういう世の中。僕も名古屋大学の大学院で、有機半導体の研究をしていたのですけど、それでもけっこう分かりやすい、光を出すというところで、分かりやすいトピックではあったのですけれども、それ以外の物性とかのところだと、なかなか大学に閉じてしまっていて、素晴らしい研究なのに、それが伝えられない葛藤みたいなのがあったので、かつそれが、フィードバックが、メディアを見た方から返ってくるのは、めちゃめちゃ素敵な話だなと、感銘を受けました。
ではパラメトリックスピーカーの続きのところなのですが、現状の課題はあるのでしょうか。

西浦教授: やはり音質でしょうね。音楽用としての活用を考えると、やはりまだそこまでの音質ではないです。空気のうなりを使って聞こえる音にしているだけなので。何と喋っているかは、もちろん分かるのですが、良い音かというと、そうでもないです。ガイダンス音声とか、何か情報提示用には使っていますけど、聴いたりするような、リラックス効果のあるような音楽に使えるかといわれると、難しいです。

窓越しに声を聞ける「光レーザーマイクロフォン」

永津: 次に、センシングと生成というところで、光レーザーマイクロフォンに興味をもちました。窓に当てた音波を読み取って、それを窓越しに声を聞けるというのは、そんな発想をしたことがなかったので、めちゃめちゃ面白いなと思いました。概要について、お聞かせいただければと思います。

西浦教授: ちなみにこの技術は、先週も警察への技術協力という形で、デモさせていただきました。

永津: 確かにとても使えそうですね!

西浦教授: 例えば「あー」と喋ってもらうと、喉に当ててもらうと、「あー」と震えていますよね、喉が。なんとなく分かりますよね。音により震えているということは、音は振動だと、なんとなく分かってもらえると思います。ということは、物体の振動にレーザー光を当てて、その光の干渉(揺れ)をカメラで撮影することによって、音に変えるのが、光レーザーマイクです。
正直、一般的なマイクだと5~10m離れたら、ほとんど叫ばないと声を録れないところ、光レーザーマイクはレーザー光が届けばどこまででも採れるので、1キロ先でも、音は録れますよ。

永津: 距離もそれで超えていけるのですね。

西浦教授: 超えていけるのです。音速よりも、光のほうが速いので、音が届く前に、先に録れるのです。遠く離れていてもね。

永津: めちゃめちゃそれ、面白いですね。すごいですね。タイムスリップというか、すごい。

西浦教授: 「もう来る」が分かってしまう。だから、例えばプロ野球の中継で、バックスクリーンからカメラを構えると、バッティング音は、映像に比べてちょっと遅れます。あれはバッターボックスからバックスクリーンまで100メートル強くらいあるので、約0.3秒遅れるのですけど、光は遅れないですね。音速を超える、光速のマイクということです。

永津: それをお聞きしていて、「なんで早く実用化されないのだろう」と思ってしまうのですが、課題感としては、どのようなところになるのでしょうか。

西浦教授: 課題としては、安定してレーザー光を供給できるかどうかです。先ほど言った通り、光の干渉を使っているということは、レーザーが常に一定の強度で安定して照射できるという前提でやっているのです。ここにムラがあるようだと、結局それが全部音質に響いてくるので、まだ安価に作るのが難しいですね。

永津: なるほど。コスト感の問題というところがあるのですね。

西浦教授: そうです。コスト感は大きいところです。我々が使っているレーザーマイクは、レーザードップラ振動計というのを使うのですけれど、800万くらいします。原理的には、レーザーポインタとフォトダイオードがあったら、基本的にはできます。ただ、レーザーポインターは、目で見る分には安定してるように見えますが、光の供給量が安定していないため、音質はいまいちですね。

永津: ありがとうございます。では応用例というところで、先ほど警察というところは、ぴんと来るのですけれども、他にもあれば、教えて頂ければと思います。

西浦教授: 正直、特に自動車業界がやはり一番気にしていて、自動車はやはり、最近カメラとかものすごいセンシング技術が進んでいるのですけど、やっぱり遅れているのです。レーザーマイクで、前後の音環境を把握できれば、救急車なんかどこから来るか、すぐ分かります。救急車が来ると、サイレン音が聞こえるじゃないですか。でもレーザマイクなら音が届く前に「救急車来るで」と分かっちゃうんですよ。

永津: なるほど。今ライダーセンサーとかでやっていますけど、音の力でそれをやっていく。それはめちゃくちゃ面白いですね。

西浦教授: ライダーズセンサーというのは、要は前との距離を測っているのです。この技術だと、前の音空間が分かるので、例えばもうすぐ子供が飛び出してきそうとか、公園の話し声とかが、全部聞こえてくるのです。そうすると、「危険地帯があと30m、20m、危険!」みたいなことができるのです。

ノイズキャンセリングの欠点を克服する「快音化」

永津: 快音化とANCの研究についてご質問させて頂ければと思います。素人質問で恐縮なのですが、ANCはノイズキャンセリングのことでしょうか?

西浦教授: はい、しかし、ANCの欠点として、低音は消せますが、波長が短い高音を消せないのです。そこで高音対策として快音化という考え方を採っています。

永津: 先生のホームページを拝見して、そのようなアプローチがあるのだと知ってワクワクしました。

西浦教授: これは、音だと確かに新しいと思うかもしれませんけど、匂いの分野は先行していて、消臭だけでなく、芳香の考え方が浸透しています。音の分野でも、消音だけでなく芳音の考え方があても良いのではないか。芳音を、いわゆる快音と捉えて研究しています。

永津: この快音化にはどのような応用先があるのでしょうか?

西浦教授: どこでもあります。例えば寝る時に、ホテルとか、静かすぎると眠れないとか、時計の針がカチカチといい出したら、寝られないというのが、ありますよね。そういうのを快音化にすることによって、意識を紛れさせることができます。同じように朝も、例えば鉄道沿線のホテルとかだと、朝の始発がガタンゴトン来た瞬間に、皆起きてしまうことが問題となっています。「なんとかならないか」という声に対して、この快音化の考え方を使うと、ガタンゴトンが来たことも気にならないのです。

永津: 実用化や研究について、どういったところが課題として挙げられるのでしょうか。

西浦教授: 1番はやはり音に対して音をぶつけるので、突発音にちょっと弱いところです。「ドアがバタンと閉まった音を、気にならなくしてくれ」というのは、まだ無理です。ずっと鳴っているような騒音には、対処しやすいのですけどね。
時計はずっとカチカチ、ああいうのは比較的得意です。何か嫌な音、例えば掃除機のキーン音、あとは空調、エアコンのサーという音。エアコンの駆動音は、快音技術で嫌な音を消すだけでなく、音により涼しさも演出することができる、音で体感涼を変えることができる。そうした音による行動変容も視野に今後研究を進めていく方針です。

永津: なるほど。ありがとうございます。どれも大変面白かったので、ぜひ頑張って魅力的な記事にしたいと思っております。
最後になるのですが、今、我々のサイトが企業のエンジニアの方々に見ていただいているのですが、もし僕たちの記事を使って、何か西浦先生のメリットになることを、お伝えできればと思っているのですけど、例えば「共同研究先を探しています。こんな企業さんとできたらいいです」みたいなのが、もしあれば、ぜひお願いします。

西浦教授: 事業化を考えるうえで、製品を量産をできる企業さんを、探すというか、お話できる所をたくさん持ちたいです。試作とか設計くらいはソニックアークでもできますが、やはり量産となると、しっかりした企業の形でないとできませんので、そういう企業と連携したいですね。新しいスピーカデバイスやマイクデバイスを量産できる企業とかと、お話したいです。



西浦教授がCTOを務める超指向性音響技術を用いる株式会社ソニックアークのリンクはこちらになりますので是非お問い合わせを頂ければと思います。

改めまして、西浦教授、お忙しい中インタビューをお受け頂きまことにありがとうございました。
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